ハラスメント対策最前線感情労働について(9)

ネット依存と感情労働

Qネット依存と感情労働についてどのようにお考えでしょうか?
Aインターネットとコミュニケーション不全、ネット依存の弊害について見てみたいと思います。

(1)インターネットとコミュニケーション不全

今日、パソコンやスマホ等のインターネット(以下「ネット」という)媒介による仕事は、私達の職場の必須アイテムとなっています。
しかしながら、このようなネットは、私達のコミュニケーションを不十分なものにしていることも指摘しなければなりません。
私達は、人と人とのコミュニケーションを言葉や身体動作を用いて行っており、この中でも言葉は3割程度で、残りの7割は身体的動作や態度など言葉以外の手段によると言われています(第6回参照)。そこでは顔の表情や振る舞いなどの「感情発露」や相手の表情を読むことなどの感情労働が職場の内外で極めて大きな役割を果たしています。
ところが、ネットの発達によってコミュニケーション手段としての感情労働が著しく狭められるようになってきています。また、日常の職場での仕事においても、出勤から退社まで、職場内外の誰とも話すことなく、ネットのみで仕事をする社員が増加しています。
本来仕事は、人々との交渉を通して行うことで充実した内容になっていくものであり、ネットはあくまでも仕事の補充的な役割とすべきものでしょう。

(2)ネット依存の弊害

それだけではなく、ネットに長時間従事することにより、精神的ストレスから潜在的なネット依存症が広がっています。
依存症は、ネットによるものに限らず、一般的に身体と対人間関係に深刻な影響をもたらしますが、ネットの場合、まず身体では、視力障害、肩こり、頭痛、運動不足などからうつ状態になったり、若年性健忘症などの危険性が指摘されています。また心では、感情や思考に対するコントロール障害を引き起こし、相手の表情を読み取ったり自分の感情を適切に表現することができなくなり、感情鈍麻に陥り、他人への思いやりがなくなって「何もかも相手が悪い」等の他罰的な思考や、「自分なんてどうせダメなんだ」などといった自己憐憫に落ちいったりすることになります。更に対人関係についてみると、感情や思考の歪みは、前述した他罰的な思考から、その場しのぎの嘘を言ったり、約束を破ったりといった無配慮な行動をとりがちとなり、職場における人間関係などで信頼を失うことになり、しかもそのような状態を後ろめたく思いながら、行動を改めることなく、改善を放置することにより、人間関係のコントロールができない状態となり、職場における適切な労働提供や職場環境を阻害することにもなりかねません。
職場からネットによる弊害を除去することが求められている故由です。

(2015年9月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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