ハラスメント対策最前線「働き方改革」とワークライフバランス(1)

働き方改革・長時間労働の改善

Q「働き方改革」が叫ばれていますが、働く者の権利はどのように変わるのでしょう?そのねらいや内容について説明して下さい。
A「働き方改革」で政府は、①「労働時間法制の見直し」で働きすぎを防ぎながら「ワーク・ライフ・バランス」や「多様で柔軟なワークスタイル」の実現と、②「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」により、給与や福利厚生などにおいて正社員と非正規社員との不合理な格差の解消と是正の2つを目標としています。しかしながら、以下に述べる通りこれらの目標は、働く者にとっては黙過できない問題が山積みされています。

1.「働き方改革」の背景

2019年4月より、働き方改革関連法が順次施行されており、現在、企業や働く人々にとって重要な課題の一つとなってきていますが、その中身については十分に知られていない状況です。厚労省によると、「働き方改革」とは、近年日本が直面している「少子高齢化に伴う生産年齢人口減」や「働くスタイルの多様化」などにより、深刻な労働力不足が生じており、これを解消するには、働き手を増やし(労働市場に参加していない女性や高齢者達)、出生率を上昇させて将来の働き手を増やし、労働生産性を向上させる必要があり(ちなみに日本はOECD加盟33カ国の22位、主要先進国7カ国の最下位)、そのための従業員満足度を向上させる環境作りとされているのです(2019年度厚労省『労働経済白書』)。要は、労働力不足を解消し、労働生産性を向上させるための対策が「働き方改革」の背景をなしているというわけです。

2.「働き方改革」の3つの課題

このように労働力不足を解消し、生産性向上を実現させるためには、①長時間労働の改善、②正規社員と非正規社員の格差③高齢者の就労促進が課題とされ、これが働き方改革の3つの柱とされていますので、以下にその概略を述べてみましょう。

  • ① 長時間労働の改善
    日本では、多くの労働者達(特に働き盛りの30代 ~ 40代)が長時間労働に従事し、パワハラ等のハラスメントを契機とする過労死や自殺の原因となっており、国連(社会権規約委員会)は2013年に日本政府に対し、このような長時間労働の是正を勧告するという国際的にみても異常な状態となっています。しかも正規社員の場合、日常的に転勤や配転に応じなければならず、これを拒否すると解雇等の不利益や有期契約やパートなどの非正規社員として働くことを余儀なくされることがあり、このような場合②で述べる非正規との待遇格差から、非正規への「選択」をすることなく正規での長時間労働を余儀なくされるのです。また長時間労働は、特に女性に対し深刻な影響を与えており、出産・育児年齢が長時間労働を余儀なくされる時期と重なる場合、育児との両立の不安から出産に踏み切れなかったり、キャリアの中断を余儀なくされたりし、また男性も育児・家事への協力がしにくくなり、結果として「出生率」の低下を招来することにつながります。このように「長時間労働の改善・是正」は、我が国の喫緊の課題になっているのです。(以下続く)

(2019年1月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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