ハラスメント対策最前線風通しの良い職場づくり -CSR活動の一環として-(1)

CSRの射程

皆さんもご存知の通り、CSRとは「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility) のことですが、それが指し示すものや脚光を浴びる部分は時代や文化によって様々に変化を遂げてきました。

  1. ①企業は誰のものか? などステークホルダー論として
  2. ②地球温暖化問題、公害などの環境対策として
  3. ③利益至上主義を改善する取り組みとして
  4. ④法令違反や企業不祥事をなくすための取り組みとして
  5. ⑤寄付活動や、学術や芸術振興などのメセナ活動として

「社会」の拡大と人権尊重

現在ではまた、少し違った様相を見せて来ています。1999年に国連で提唱した「グローバル・コンパクト」において「人権・労働基準・環境・腐敗防止」に関する10の原則が示されましたが、2010年には社会的責任の国際規格、ISO26000が発行されました。ISO26000には、全ての組織で基本とすべき重要な視点として「社会的責任の7つの原則」が掲げられています。

  1. ①説明責任
  2. ②透明性
  3. ③倫理的な行動
  4. ④ステークホルダーの利害の尊重
  5. ⑤法の支配の尊重
  6. ⑥国際行動規範の尊重
  7. ⑦人権の尊重

ここで特徴的なことの一つとして、「人権の尊重」が唱われていることが挙げられます。これまでのCSRが指し示していた「社会」とは、漠然とした「国民」「消費者」「株主」「労働者」などのステークホルダーや市民社会のことであり、個人一人一人という意味ではありませんでした。

また、これまではどちらかと言うと「社外」のステークホルダーに光が当たって来た取り組みに対して、「社内」も含むより大きな概念としての「人権」ということが明記されたことで射程が広がり、やるべきことが増えたということも事実です。

ハラスメント問題にしても、これまではどちらかと言えば「内政不干渉」というような形で企業に一任されてきたという節がありますが、これからのCSRの取り組みにおいては、 法令遵守を越えた、より積極的で自主的な取り組みが必要になります。企業には人権を守る責任があり、そして、企業内で人権侵害を防ぐための仕組みを構築する責任があるのです。

求められる対応

上記のようなことから、企業は今後ますます、従業員が安心して能力を発揮できる職場環境を整えることが求められるようになるでしょう。具体的には、身分や肩書き、性別などで差別することなく「個人」として尊重して公平に処遇することや、 様々なハラスメント問題を解決すること、対話を重んじたコミュニケーションを推進することなどです。

これまでの実践研究を通して、職場の風通しの良い企業にはハラスメントが少ないということが分かってきました。詳細は次回に譲りたいと思いますが、「風通しがなぜ良いか?」を考えればわかるように、コミュニケーションに偏りや壁がない環境では、偏見や誤解、妬みや怒りといった感情の歪んだ形での表出などが少なく、また、グループや部署といった閉鎖性による隠蔽が起きにくいということがあります。次回は、この「職場の風通し」に対して推進者ができる取り組みについて述べたいと思います。

(2013年1月)

プロフィール

村松 邦子
経営倫理士

株式会社ウェルネス・システム研究所 代表取締役
NPO法人GEWEL(ジュエル)代表理事
一般社団法人経営倫理実践研究センター 主任研究員
筑波大学大学院修士課程修了(人間総合科学)

経歴

グローバル企業の広報部長、企業倫理室長、ダイバーシティ推進責任者を経て独立。
「健幸な社員が健全な組織をつくる」をテーマに、人財組織開発と連動したダイバーシティ、企業倫理、CSR推進の支援・普及に取り組んでいる。
経営倫理実践研究センター主任研究員、日本経営倫理士協会理事、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事。

著書(共著)
「人にやさしい会社~安全・安心、絆の経営~」(白桃書房、2013)
「三方よしに学ぶ 人に好かれる会社」(サンライズ出版、2015)

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