海外ハラスメント問題第5弾 デンマークのパワハラ予防第一人者 エヴァ・ジェムシュー・ミケルセンさん

第5弾 デンマークのパワハラ予防第一人者 エヴァ・ジェムシュー・ミケルセンさん

今回は、IAWBH職場のいじめとハラスメント国際学会(2012年6月13~15日 コペンハーゲンにて開催)で出会った、デンマークのパワハラ予防第一人者、エヴァ・ジェムシュー・ミケルセンさんをご紹介させていただきます。

デンマークは労働環境を整える取り組みが進んでいる国のひとつとされています。今年の夏頃にも、労働大臣が、職場環境に関する施策や病欠した従業員の職場復帰に関して、莫大な予算を費やす意向があると表明しました。また、レナート・ダンスボ・アンダーセン氏(Lennart Damsbo-Andersenデンマーク国会議員・雇用委員会議長)が「IAWBH職場のいじめとハラスメント国際学会」のオープニングでご挨拶をされたことからもこの問題に関する政府の関心の高さがうかがえます。

今回はデンマークにおけるパワハラ予防第一人者、エヴァ・ジェムシュー・ミケルセンさんにデンマークにおける職場のハラスメント事情をお伺いいたしました。

エヴァ・ジェムシュー・ミケルセンさん (Eva Gemzoe Mikkelsen)

略歴

2001年オーフス大学で心理学博士号を取得、2001~2008年オーフス大学心理学部外部講師、2008年臨床心理士として認可。
2009年デンマーク国立職場環境リサーチセンターで「職場のいじめと争いの予防プロジェクト」に研究員兼プロジェクトマネージャーとして参加。
2002年から現在までデンマークのコンサルタント会社CRECEA(クレセア)に勤め、職場のいじめ予防や職場環境に関するさまざまなプロジェクトを手がけている。
公共機関や民間企業における仲裁等のコンフリクト・マネジメント、職場のいじめのケース・マネジメント、グループ・コンサルテーションの実施、公共機関や民間企業における職場環境の評価、経営上層部のコーチング、職場のいじめ予防の担当者研修、職場のいじめ予防を望む組織のコンサル、職場のいじめ予防に関するセミナー実施、ストレスに苦しむ従業員やマネージャーとのセラピーセッションの実施など多くの案件にたずさわり、その他、専門誌への寄稿や論文も多数。

デンマークにおける職場のハラスメント事情

Q職場でのいじめやハラスメントに関してデンマークの状況を教えてください。
A人々はこのテーマを話題にする事は少なく、あまり関心が高いとは言えないかもしれません。しかし、政府は職場環境を整えることについての意識が高く、また、われわれのようなコンサルタントも、職場でのいじめを予防することへの関心は非常に高いです。
Qデンマークでは職場でのいじめが起こった時どのように対処をするのでしょうか?
A組織にもよりますが、直属の上司のところへ相談にいくのが主流ではないでしょうか。しかし、この場合、上司に対応能力がなかったり、時間がなかったりといった問題はあるかもしれません。あるいは被害者は人事部へ行ったり、もしくは、職場環境の担当者や労働組合等従業員の代表者のもとへ行ったりするかもしれません。

その被害者が企業のどの部署・支店で働いているのかにもよると思います。
工場などでの職場のいじめは労働組合で対応しますし、病院や学校、官庁などの公的な職場のいじめは、職場環境担当者とマネジメントの代表者などで対応します。

クレセアでは、職場でのいじめや対立の初期対応に当たる、あるいは、問題解決をサポートする人々を育成するキーパーソンを置くよう、組織に提言しています。
私はデンマークの防衛省でそういったキーパーソンを置くシステムを開発しましたが、とてもよく機能しています。
Q内部に相談窓口がある企業はありますか? またそれはどのような方が相談員をつとめていらっしゃいますか?
A内部の窓口である場合は、担当者は精神分析医である場合が多いです。しかし、社会福祉相談員などである場合もあるようです。また、ふだんは別の仕事をしていて、何か問題が起きると相談員の立場になるという人もいます。
外部に相談窓口を委託する企業もあります。
Qデンマークではハラスメント予防を行うにあたって、障壁になっているのはなんであると考えますか?
A情報の少なさと認識の低さだと思います。また、不況のため、マネージャーや企業は職場環境に関する施策や、マネジメント能力の向上などに予算をあまりかけない傾向にあります。
そして、職場でのいじめが、従業員や組織に重大な悪影響をもたらすことを直視しないマネージャーや企業がいまだにあります。
Qいじめ予防におけるマネジメントの役割は何でしょうか?
A職場のいじめ予防は、マネジメントがよい職場環境を保証しようという責任を担うことにつきます。職場に問題が現れるや否やすぐに対処する必要があるからです。マネージャーが行動するということ(あるいは、しないということ)は、会社全体にクリアなシグナルを送る事になります。マネージャー各自は、自分の部署内でいじめや深刻な対立が起こらないよう責任を担うべきです。また、万一起きた場合には直ちに対処するのです。一方で企業は、マネージャーが行為者とされるケースが多いということを把握しておく必要があります。このことから、直属の上司は被害者にとっての最初の連絡先であるべきではありません。
Q職場のいじめをなくすためにどうすればいいとお考えですか?
A私は、必ずしもいじめがなくなることを保証できないものの、組織にはアンチいじめポリシーや職場のいじめ予防を目的とした戦略が必要であると考えています。

いじめの予防策を考える企業はポリシーを描く必要があります。会社はいじめを許さないという姿勢を示すポリシーです。そのポリシーは万一いじめがあった場合、会社がどのように対処するかの明確なガイドラインとなります。ポリシーには例えば以下のような点が含まれているべきです。

・職場いじめは許されないという公表
・いじめの定義
・いじめとみなされるネガティブな言動の例
・いじめに遭った人への助言
・助言やサポートを受けられる連絡先
・懲戒処罰(人をいじめるとどうなるか)
・法律への言及など

職場いじめは許されないという公表とは、例えば、いかなる場合もいじめは許されない、行為者には会社がただちに何らかのアクションを取るといった、いじめに関する会社の立場を表明するということです。公表するということは、会社がポジティブで平等な職場の人間関係(同僚同士、マネジャー同士、上司・部下)の後押しをする、ということを示す事でもあります。

ポリシーにはいじめの定義が欠かせません。定義が双方の案件への理解を確実なものにします。いじめとは何かという明確な理解は、被害者や目撃者がいじめに対応する、もしくはマネジメントへ助けを求める機会を増やします。相互理解に達するには、多くの人がいじめであると感じる態度や行動の例を挙げる必要があります。例えば、嫌がらせ、うわさ話、誹謗中傷、見た目や考え方を馬鹿にする、無視する、仲間はずれにするといった自身を守る事が出来ない相手への侮辱や品位を汚す行為等です。
Qいじめを許さない組織としてはいじめ案件をどのように処理するべきでしょうか?
Aいじめは許されないと公表するからには、具体的なアクションが伴わなければ意味がありません。反いじめポリシーが功を奏するには、組織としていじめ案件をどう対処するのかという戦略が不可欠です。以下のようなことについて明確なガイドラインが必要です。

仮にいじめに遭った時、やってもいいこととやるべきではないこと
いじめられた時、いじめたとされた時、だれかと対立関係にある時、だれのところへ行けばよいか
そうすると何が起こるのか(例:問題を把握する為に担当者が当事者と話す)
続いて何が起こるのか(例:さらなる調査、外部コンサルタントまたはマネジメントによる問題解決)
いじめが続いた場合どのような結果が待ち受けているか(例:口頭もしくは文書による注意、解雇)
私が知りうる限り、多くのいじめ案件で、ダメージを受けた企業では、反いじめポリシーや案件に対処する上での戦略を持ち合わせていませんでした。結果として、被害者は組織のどこへ行けば良いのか知らず、組織において誰も自分の話を聴いてくれないだろうと思っていたのです。逆に、いじめの行為者として解雇された案件では、彼らの側の話をする機会が与えられなかったということもありました。いじめ対処の戦略を持っておくと、困難な案件であっても迅速な解決の可能性が高まります。私の経験では、問題解決の長期化は、より長期の病欠や解雇につながるリスクを高めるようです。
Q今後の活動について教えてください。
Aいじめ予防を手がけていきたいと思っています。
職場のいじめを減らすにあたっては、それに費やす時間と経費について、われわれ専門家の間でも多様な意見があるのが現状です。実際、職場でいじめに遭うと、被害者のメンタルヘルス、家族との生活、今後のキャリアに深く悪影響を与えます。企業収益もリスクにさらされます。また、職場におけるいじめは欠勤の増加、スタッフのモチベーションの低下を生みます。すると、効率や生産性は落ち、退社率が跳ね上がります。このような影響が出ることから、いじめの予防は企業にとって有利な投資であると思います。

いま、組織の間ではいじめの予防といじめや対立に関するマネジメントについて関心が高まっています。いくつかの案件については調査を行ってくれるよう、求められています。ある省庁の傘下にある組織からは、いじめ問題をよりよくハンドリングできるよう支援してほしいという依頼がありました。
また、私は現在、被害者の心理社会的リハビリテーションに関する記事を寄稿する準備もしています。これは、介入初期からその後に続く5年間のフォローアップに関するケーススタディです。

いじめの予防や対策には実際時間がかかりますし、お金もかかります。しかしながら、ひとつのいじめ案件にかかる潜在的損失を考えると、やはり予防は有利な投資であると言わざるを得ないと思います。

CRECEA クレセア株式会社

デンマークのコンサルタント会社で、本部はオーフスにあり、<健やかな企業に健やかな人>というステートメントを掲げ、職場環境に関するメンタルおよび身体的なアドバイスを民間、公的機関の両方に提供しています。デンマークに5つのオフィスを展開しています。

http://www.crecea.dk/

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cuore@cuorec3.co.jp

レポーター クオレ・シー・キューブ 岩崎

(2012年11月)

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