ハラスメント対策最前線職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について(9)

ストレスチェック導入に向けての準備と課題

紆余曲折を経た「改正労働安全衛生法(通称:ストレスチェック義務化法案)」が平成26年6月に成立し、いよいよ本年12月から施行されます。各企業でのストレスチェック導入の準備は順調でしょうか?

ストレスチェック制度の目的

この制度の目的は大きく2つあります。 ひとつは、従業員がストレスチェックを受けることで"自分のストレス状況に気づき、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させること。
もうひとつは、企業が"職場におけるストレス要因となる職場環境の改善につなげ、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐ"ことです。
したがって、ストレスチェックをすることで、メンタルヘルス不調者を見つけ出そうというものではありません。また、健康診断のメンタルヘルス・オプションでもありません。個人の症状チェックではなく、むしろ職場のストレス状況チェックが目的といえるかもしれません。

ストレスチェックの方法

職業性ストレスチェック簡易調査票を用います。内容は、仕事のストレス要因、ストレス反応、周囲からのサポート(人間関係)の有無、仕事や家庭への満足度などでそれぞれ「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4段階から、あてはまるものを選択して回答するという簡単なものです。

    ストレスチェック制度の概要

  • ① 従業員数が常時50人以上のすべての事業場は、年に1回従業員にストレスチェックを実施することが義務付けられました。50人未満の事業場については、実施努力義務とされています。
  • ② ライバシー保護の観点から、ストレスチェックの結果は直接、従業員に通知されます。その結果からストレスを抱えていると判断された人(高ストレス者)が希望した場合、産業医などの医師による面接指導を受けることができます。面談を申し出たことにより、その従業員に不利益な取り扱いをしてはいけないことになっています。
  • ③ 申し出た従業員に医師が面接指導します。この医師とは、多くの場合は産業医が想定されていますが、メンタルヘルスに対する専門的な知識を持ち、的確な判断力と指導力が求められます。
  • ④ 事業者は面接指導した医師から意見を聴き、事後措置として職場の環境改善(作業の転換、労働時間の短縮ほか、適切な就業上の措置)に取り組まなければなりません。

こうしたことから今、企業として早急に取り組むべき課題は以下のように考えられます。
(1)各従業員に対して、このストレスチェック制度の周知徹底をすること
(2)その目的をきちんと説明すること
(3)高ストレス者が不安を抱かないように、プライバシー保護、守秘義務遵守がされることを明言すること
(4)そのための体制づくり

予見される課題

ストレスチェック制度については、現段階でもさまざまな問題が想定されています。たとえば・・・

  • 職場での環境改善のためにストレスチェックの結果を活用する場合、集団としての統計処理をすることになるが、ストレスチェックを健康診断時に施行する事業所で、健康診断を誕生月に行っているところはどの時点で集計するのか。初めの人がチェックしてから集計可能になるまで一年が経過するという問題
  • 事業者はストレスチェックを施行する義務はあるが、労働者には受ける義務はなく、「まじめな高ストレス者」ほど、受検を拒否する可能性がある。
  • 高ストレス者が産業医面談を希望する場合、人事などに連絡しなければならなくなるが、その際の守秘義務・プライバシー配慮はどこまでなされるのか、その体制整備はどうなされるのか。
  • 面談が必要な高ストレス者をどこで線引きするのか。

実際に12月に施行されるとそれらがより見えてくることでしょう。12月の連載ではそのあたりについて触れてみたいと思います。

(2015年8月)

プロフィール

苅部 千恵(かりべ ちえ)
所属 (かりべクリニック院長)

経歴

1980年 横浜市立大学医学部卒業
1980年 九州大学医学部心療内科勤務(九州大学医学部)
    第一内科、第三内科、心療内科にて研修及び研究
1987年 東京大学医学部心療内科勤務
1994年 昭和大学医学部附属藤が丘病院勤務(兼任講師)
1995年 医療法人財団健生会勤務(理事)
1998年 かりべクリニック開業

所属学会認定医など
【所属学会】
日本心身医学会
日本産業衛生学会
日本産業ストレス学会
日本心療内科学会
日本東洋医学学会
日本うつ病学会
【資格】
医学博士
労働衛生コンサルタント
日本医師会認定産業医
心身医療「内科」専門医

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