海外ハラスメント問題第6弾 Lynn Harrison パワハラ上司のエグゼクティブ・コーチ

第6弾 パワハラ上司のエグゼクティブ・コーチ リン・ハリソンさん

リン・ハリソンさんは、応用行動科学の修士号を持ち、カリフォルニア・サンラファエルのCoaches Training Institute(コーチトレーニング協会)でコーチの資格を取得された、国際コーチ連盟のメンバーです。ブリティッシュコロンビア州司法研究所の役員も務めていらっしゃいます。

コーチングのスペシャリストで、エグゼクティブ・コーチとして20年以上マネジメント、トレーニング、コンサルティング経験があり、これまでに数多くのリーダー養成やチーム育成に関わられました。国際的な研修機関の創設、企業における人事部のマネジメント、さまざまな民間および公的機関へのコーチングやコンサルティングなどに携わっていらっしゃいます。

現在、カナダ、バンクーバーにあるブラックタスク・リーダーシップの主任コーチを務めていらっしゃいます。

Black Tusk Leadership http://www.blacktuskleadership.com/

Qどのようなお仕事をされているのですか?
A私はコーチングや介入を通じて職場でのハラスメントに対処しています。
尊敬と信頼の基本方針に則った組織文化(企業風土)を築き、形作るために、組織の経営管理層と一緒に取り組んでいます。

私は管理職向けコーチングの専門なので、クライアントは主にパワハラ的な言動をとってしまう職場のリーダーたちです。私は彼らが、職場でリーダーとして同僚たちをよりよく導くことができるように、よりよい人間関係を築き、同僚たちが張り詰めた職場から解放されるように、彼らの管理者としてのコミュニケーションスキルを改善するサポートをします。

それから、いま、サンフランシスコのセイブルック大学で、「パワハラ上司の介入にコーチングがいかに有効か」をテーマに調査研究を手がけています。この研究を通して、問題の深刻化に歯止めをかけるのに、コーチングが早期介入に役立つということを示せたら、と思っています。
Q職場のいじめやハラスメントを予防するにあたって、あなたの指針をお聞かせ下さい。
A職場のいじめやハラスメントを予防するにあたって私はまず、リーダーたちの啓発を感情・社会性・関係性の3つにおいてサポートすることを指針としています。
コーチングは尊重と信頼のおける職場づくりを支援しながら、リーダーたちが同僚との付き合い方を学ぶにあたりとても効果があると私は考えています。

組織においてリーダーたちは、人々が特性を発揮する職場づくりの重要性とその効果を理解する必要があります。すべてのひとが特性を発揮する組織風土を築き上げるのは、シニアマネージャーにとって重要な責務です。また、行為者が管理者であっても従業員であっても、健康的でない職場における言動に対処し防止するのもリーダーの責任です。

才能ある人材は人を大切にしなかったり、人を大切にしない同僚の言動を放置するような組織には残りません。優秀な人材はさっさとやめて、他へ移ります。
Qコーチングをするときにはどのようなことをリーダーたちに伝えますか?また、どのようなチャレンジに直面しますか?
A私は皆さんに次のことをお伝えしています。変わることは可能である、また、多くの場合、職場で彼ら自身の名誉を挽回する、信頼を取り戻すといったことは可能である、ということです。その変化のプロセスを成功させるためには、本人が変わろうとしなければなりません。本人が自身の変革に真剣に取り組むために、時には会社側から、プレッシャーを与える必要がある場合もあります。また、そのパワハラ上司だけでなく、その人が属している組織も含めてコーチしています。というのも、リーダーシップに欠けた行動の原因はしばしば環境に潜んでいることがあるためです。
パワハラ的な言動を引き起こす原因は、仕事上のストレスであったり、その組織では当たり前とされている企業文化(報酬システムも含みます)などがあります。同僚たちが知らないうちに、従来通りのやり方を踏襲すべく無意識にパワハラに共謀することだってあり得ます。慣例は個人の場合だけでなく、組織ぐるみの場合もあるのです。
Q職場のハラスメント予防にあたっての障壁は何でしょうか?
A雇用者側が問題の重要性に気付いていないこと。まだ問題がそれほど大きくない初期段階に、介入する方法や必要性に気付いていないこと。問題の兆候を認識するといったことに関して上層部のトレーニングが不足していること、です。
Qカナダの企業ではハラスメントが起きた時通常どのように対処しますか?
A多くの場合、職場でハラスメントやいじめが起きた際に駆け込む先は、人事部あるいは労働組合でしょう。
ブリティッシュコロンビアでは職場のいじめを禁じる法制化がつい最近されたばかりなので、企業は徐々に職場でのいじめへの対策を取り入れる事になるでしょう。

現状は、多くの場合、相談者は自身の上司のところか、もし行為者が上司なら人事部へ行きます。そして相談を受けたマネージャーは部署内で問題を解決するか、あるいは、人事部のガイダンスのもと問題を解決するという流れになります。
このように職場のいじめに関するプロセスでは人事部の役割が大きいです。残念ながら人事部にはシニアマネジメントからこの問題に対処する適切なサポートはなかなか得られないのが現状です。結果として問題が他の部署へ移され、行為者は他の部署へ異動にならないなど、問題が悪化することもあります。

また、カナダのほとんどの企業はEAP(Employee Assistance Program)を導入しています。EAPはあらゆるニーズについてカウンセリングを提供します。
一部の大企業には、相談員が常駐しており、彼らは、カウンセリングや対立仲介などのトレーニングを受けていて、何か問題が起きた時にどのように解決すればいいかをガイダンスしてくれます。
Qカナダではハラスメント問題はどのように扱われているのでしょうか?
A私の住んでいるブリティッシュコロンビアなどカナダ西部は、東部(オンタリオやケベックなど)や中央部(サスカチュワンなど)と比べて職場のいじめやハラスメントに関する法律の適用が遅れています。今年の夏にようやく法制化がされました。
2002年、ケベック州政府は北アメリカで一番最初に『いじめ反対法』を成立させました。ケベックの『職場での精神的ハラスメント法』(Psychological Harassment at Work Act)は「すべての従業員に精神的ハラスメントのない職場で働く権利がある」としています。そして「雇用者は精神的ハラスメントを予防するため、責任ある行動をとらねばならない。そして、そのような言動に気付いたときには、それを止めなければならない」(ケベック、2002)。この法律は2004年から効力を発しています。

2007年、サスカチュワン州は、従業員の健康と安全を脅かすハラスメントから個人を守るため、労働衛生法を補正しました。(サスカチュワン、2007)

2008年、カナダ政府は国の労働衛生法について規制の補正をし、雇用者は職場における暴力やいじめ、その他ハラスメント的言動に対処するよう求めています。

参考までに「バンクーバー・サン」に掲載された関連記事(翻訳)を以下に掲載します。

ブリティッシュコロンビアが「いじめ反対」を法案化した5番目の州に
(2012年7月13日バンクーバー・サン紙より)

ブリティッシュコロンビア州政府は、労災補償に関する第14法案(Bill 14, Workers Compensation Amendment Act, 2011)の修正法案を議会で通過させた。2012年7月1日より発効する同修正案は、労働者補償法に関するもので、職場のいじめ問題に取り組むものである。
この修正案は、精神的ストレスではなく、「精神的疾患」が (i) 雇用から生じたトラウマとなる出来事への反応である場合、あるいは、(ii) 労働者が雇用されたことから生ずるいじめハラスメントなど、著しい仕事に関連したストレス源やストレス源の積み重なりが主たる原因となった場合、労働者は補償を受ける権利を有すると明言している。

ここでいう精神的疾患とは、『米国精神医学会の精神疾患の分類と診断の手引き』(American Psychiatric Association’s Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) に定められた精神的あるいは身体的状態として精神科医か精神分析医により、診断されたものでなくてはならない。労働者補償委員会は、精神科医あるいは精神分析医を指名して、診断を検証し、精神的疾患に対する補償に該当するかを決定する場合もある。精神的疾患が、作業内容や労働条件の変更、労働者への懲罰、雇用の終了など、当該労働者の雇用に関係のある雇用者が下した決定に起因する場合は、補償の対象とならない。
労働者補償法に対するこれらの修正は、2012年7月1日以降の同委員会や労働者補償裁判所が下す決定すべてに適用され、ここには、2012年7月1日より前の訴えで最終裁定が下されていないものも含まれる。

ブリティッシュコロンビアは、職場におけるいじめを法的に禁じた5番目の州である。最初の州は2004年に職場基準の尊重を法制化したケベック州である。その後は、2007年サスカチュワン州、2009年オンタリオ州、そして2011年マニトバ州である。

ブリティッシュコロンビアの労働者補償法の修正は、職場のいじめ問題に対する重要な一歩で、同州の職場での精神的ハラスメントやいじめを対象に、より合理的で簡単な方法を提供することを狙いとしている。この修正案の影響はしばらくは不明であろうが、賃金損失に対する訴えに関連した費用は、裁定に関連する管理コストや予想される訴えの増加分を含めず、年間1800万から2000万カナダドルと見込まれる。今回の修正が他の裁判所の裁定に及ぼす影響も不明である。たとえば、ブリティッシュコロンビア人権裁判所は、人権法の下、差別による職場のハラスメントを扱っている。この2つの行政機関による重複により、従業員が多重的に訴えを起こし、その結果雇用側のコストが増大する可能性がある。

職場のルールを再検討し、いじめやハラスメントに適切に対処することで、法の遵守や職場でこれらの訴えが起きるリスクを軽減することが、経営者にとっては賢明な判断といえる。

Q法案ではストレス源について触れられていますね。ストレスの感じ方は人それぞれで、それゆえなかなかはっきりとした判断がつきかねるのが現状かと思いますが、ストレスの多い職場環境とはどのようなことを指すとお考えですか?
A私が考えるストレスの多い職場環境とは・・・
  • ・過度の仕事量と課題要求
  • ・役割葛藤(例えば、仕事を遂行するにあたって矛盾する要求や期待を与えること)
  • ・役割の曖昧さ(例えば、どの業務がだれの仕事か不確かであること)
  • ・職の不安定さ
  • ・不当な、またはネガティブな(生産的でない)フィードバック
  • ・仕事上のコントロールの欠如
  • ・同僚や上司からの社会的支援の欠如
  • ・人間関係の対立
  • ・自由放任なリーダーシップ
  • ・専制的リーダーシップ

これらの例は、主に職務の特性と深く関係しています。つまり、本質的にストレス度の高い仕事、例えば、負荷の高い状況にさらされやすい仕事があるということ把握しておく必要があります。
こうしたことからも職務の特性を認識するのは重要なことです。それらは管理方法の改善や仕事の進め方によって、管理監督の質、フィードバックや研修などスキルの向上によって、組織としての改善を可能にするからです。

いくつかの研究は職場でのいじめが、理不尽な人間が繰り返す言動よりも、組織の慣習から起きるということを示しています。過度のストレスの原因となりうる組織の慣習例としては、厳しいゴールに到達しなかった際に残業手当を支給しない、不平等な方法で仕事の出来・不出来を評価する、病欠に関する方針などで従業員を脅す、ゴールに到達しなかった際に懲罰・解雇・異動などによって脅す、などがあります。
また、マネージャーたちが相も変わらず”慣習”を実行しているとしたら、職場のいじめがじわじわと個人間のいじめへと発展するケースが潜んでいると考えられます。
パワハラ的態度をとる人々をすぐに悪者扱いせず、職場全体で捉えることが重要であると考えます。

(2012年12月)

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