ビジョナリー対談アドバンストアイ株式会社 監査役 富島 正 氏

Vol.16 アドバンストアイ株式会社 監査役 富島 正氏

今回のビジョナリー対談では、弊社代表・岡田康子が、30年以上のお付き合いがあるアドバンストアイ株式会社および株式会社クオレ・シー・キューブ監査役である 富島正氏に、次世代リーダーへのメッセージとして、人として求められる人間になるためのヒントや魅力的なリーダーになるためのヒントをうかがいました。

富島さんの経歴

岡田康子 クオレ・シー・キューブ(以下、岡田):
富島さんは素敵な佇まいでお洒落な紳士として、弊社でも大変人気があり、若い人たちからとても受け入れられています。失礼ながら80代の男性では珍しいと思います。

富島さんは、入社は川崎製鉄株式会社(現・JFEスチール株式会社)。それから、川鉄システム開発株式会社(現・ JFEシステムズ)に行って、そこを上場させたんですね。私が出会った時、富島さんは半導体の新規ビジネス立ち上げの責任者でした。そこで川鉄とアメリカのベンチャー企業との合弁会社を作ったり、新事業の最先端で仕事をしていらした。そのあと、川鉄システム開発株式会社の社長をされて、その会社を上場させた…

自分の見せ場を用意する

岡田:

製鉄会社というのは、お堅いというか、長期的に物を考えている人が多いイメージがあります。その中で富島さんの存在は、異色なのかなと思うんですけども…

富島 正氏 アドバンストアイ株式会社(以下、富島氏):
結果として異色だったでしょうね。結果として、というのは、僕は本来ずっと一人でいたかったから。形にこだわらないです。例えば、結婚するべきとか、そういうプライベートなことは関係ないんです。会社というのは仕事をするかしないかが問題なのだから。

岡田:
それは当時(今から60年くらい前)は珍しいですよね。プライベートでも仕事のスタイルも、富島さんは異質だったのでしょうね。

富島氏:
僕は学生の頃、役者にあこがれていて俳優をやりたかった。舞台の中央で主役の自分が一人だけスポットライトをあびて立っている。お辞儀をして緞帳が降りるなか、客席からの拍手もぜんぶ自分に注がれている。それが、かっこいい!って思う。

上場記念パーティーでは、自分の挨拶の前に和太鼓と津軽三味線を演奏させたんです。あの時は自分の役者へのあこがれの気持ちを少し表現しましたね。それは演出家としてというよりはそのあとで登場する主役の自分を演じられた満足感がありました。

岡田:
富島さんは自分のことを冷静に見ている印象があって淡々とされています。ご自身のこと、自分のサイズ・特徴・容量、そういったことをご自身でわかっている感じがします。自分のサイズでやっていくというような…

富島氏:
そうですね。自己意識は高いです。自分のことを認める人は自分のことを使えばいいし、認めない人は使わなくていいと思っています。あと、「お前ら気が付いたか、俺の才能に…」くらいの気持ちはあるかもしれないです。

新規事業をやれと言われたら、その人たちは自分のことを使いたいんだなということで、それではやってあげましょう、という感じです。

岡田:
高みを目指すということも全然考えていなさそうです。淡々と求められたことに応えるような…

富島氏:
高みを目指してはいないけど、結果として高みに行ければいいよねっていう感じです。そこに何が何でも行かなければ!というのはない。

自分の生い立ちを振り返ってみても、どこか他動的なところがあって、自分では動いてないんですよ。周りからの働きかけとか、何らかの作用で「それなら、それでもいいか。」と生きてきた。

何が何でもこれじゃなきゃいけないというこだわりがない。勘というのか、直感で動いています。

岡田:
人の心理を読むとか、巧みさが、富島さんの持っている特性なのでは…

富島氏:
そうですね…どこかで、人にそう言わせるような雰囲気を作って、自分で自分の見せ場を用意しているかもしれないですね。自分が主役をはれることをわかっていて、そういう計算の上で成り立っている。自然に道を歩いてるわけではないです。

人への差別、こだわりがない

岡田:

私が30代のとき、ちょうど独立したばかりで当時、富島さんは川崎製鉄の部長でいらして。それなのに、私のお話をちゃんと聞いてくださりました。

若くても女性でもその発言が面白いなと思ったら面白いと言い、素直に感動する。肩書きだとかそういう目で人を見ていない。これは富島さんの基本的な姿勢で、すごいところです。

それから先見性かあるなと思います。当時すでに、在宅勤務や託児所などのアイディアも考えておられました…

富島氏:
でも、総務や関連の部署に反対されました。とくにこだわりもなかったので、主な業務ではない制度的なことですし。そのときは実現しなかったですね。

岡田:
しかし、いまや、そういうことが当たり前の時代になっています。時代を先取りする感性があるということですね。

トップの仕事は、決めること

岡田:
責任ある立場でありながら、自由で豊富なアイデアを持っているというところが魅力ですね。どうしたらそれが両立できるのでしょうか。意思決定をする場面も多かったかと思いますが。

富島氏:
あるプロジェクト会議でのことです。20人ぐらいで議論をさせて、5案あるうち第2案がとてもポジティブな雰囲気になりました。その場にいたメンバーは誰もが、その案で決定すると思ったでしょう。しかし、当時、社長だった自分にとっては、その第2案は何のリスクもなく面白くなかった。

そのため、当初より私が面白いと思った第1案で決定しました。私にとっては大勢が賛成する案というのは、つまらないんです。こういうところが天邪鬼かもしれません。世の中がこちらを見ているのであれば、だれか別の方向見ても良いだろうと思うのです。

また、決定案というのは、それで進む以外にはないので、どれがよかったのかは誰にも証明できないし、わからないものでもあります。

そこで「決める」のがトップの仕事ではないでしょうか。

岡田:
その決断に迫られてプレッシャーを抱えている経営者は多いと思うのですが、富島さんはいかがでしたか…

富島氏:
全然、感じたことないです。自分の判断が悪ければ自分が責任を取ればよいだけのことです。全責任をとって辞めればいい。何も大変なことはありません。

じつはどこかで大失敗をしているのかもしれないです。でも、とりあえずそれについて追及されることなく来ています。

岡田:
判断という点では、いつも世の中を見ていて、どこかで反対の考えを持っていて、そのバランスを見ていらっしゃるのではないでしょうか。

そして、タイミングを見極めながら、機転の利いた動きをされている…

富島氏:
そうですね、そうやってリスクを回避しようとしますね。そこは勘と感性で。

岡田:

自分で責任を取ると決めたときに、勘って発揮されるように思います。敏感になる。いろんな情報を理屈ではなく直感で受け取っていると、何か異質なものが入ってきたときに、これは魅力的だな、これは怪しいな、ということを感覚でかぎ分けていくようなところがあると思います。

リスクを取るということと直感を磨くということは何か通じるのかなって思うんです。いつも崖っぷちにいるから。

そこは、人様に「こっちがいいですよ」と言われても、それを信じることはできないですよね。

富島氏:
自分の命がかかってるからね。でも、怖いとは思うんだよね。

自他ともに認めるお洒落さん

岡田:
富島さんは、自他ともに認めるお洒落さんだと思うんです。人から見られていて、ちょっとお洒落であるところに美学を感じます。それは直観力を磨くことにもつながっているのではないでしょうか。

富島氏:
「地味な格好をしていながら、実は仕事ができるんです」というよりは、身なりをきれいにして、いかにもデキる感じを出すほうが楽なんです。そこにギャップがないでしょう。

月曜から金曜まで毎日、靴を変え、スーツ、シャツ、ネクタイも変えていました。接待など場所に合わせた身なりもしたいから、いつも一式オフィスに置いていました。

靴は週末には自分でしっかり磨いていましたね…一足、一足。

お洒落は見た目のバランスですが、自分自身と他人から見た自分とのバランスであったり、外見の自分と実際の自分のバランスでもありますね。

岡田:
それは、常に感覚・感性を磨いていくことでもあるわけでしょう。人からどういう風に見られるか常に計算して振る舞うという…。そういうことは経営感覚、経営バランスにつながっているのかもしれないですね。

富島氏:
職場と休日の時と、どこかへ出かけるときと、TPOを演じ分けたい変身願望みたいなものはありますね。

岡田:
それぞれのシチュエーションが舞台であったなら、この服装はこの舞台に一番合いそう!とか、この舞台で自分は主役としてこう振る舞いたい!といったことを楽しんでおられるのですね。

富島氏:
その世界観とそこにいる自分。その感覚は自分の中でもかなり重要なところです。

岡田:
社長になってからは、監督としてはどういう配役で、どういうストーリーでと考える…

富島氏:
そのストーリーのどこで稼ぐ!と決まっているから、そういう見せ場、見せ場でメリハリをつけていく。そういうのは大好きだね。

人生たかだか80、90年で、かりそめの人生なのだから。夢舞台です。

岡田:
ファッションや、直感的な感覚、先進的でなかなか人からは受け入れてもらえないアイデアやひらめきを思いつかれるあたりでは、やはり好奇心がその源なのかなと思うのですが…

富島氏:
こういう「心覚え」という小さな手帳を持ち歩いているんです。書いているのは色んなキーワードね。統一性もテーマもない。広く浅く。深さはないんです。

一つ一つ、勉強しているわけではないんだけど、メモで書いているんです。読み方がわからなかったり、意味がよくわからないものなど調べて書いています。書いたら、終わりです。

心覚え

Tomi “心覚え”

(2022年6月 クオレ・シー・キューブにて)

ビジョナリー対談を終えて

偉業を成し遂げた先輩にその見事な生き方のコツを教えていただきたくて、インタビューに臨んだのですが、雑談のように自然に会話が進みました。これも富島さんの持ち味。相手に緊張感をもたせず自然体で対応してくださいました。そういう佇まいだからこそ情報も集まり、人もよってくるのだと思いました。また、常に新しいことに興味をもつ好奇心が若々しさの秘訣かもしれません。人生を一つの舞台と見立てて自分自身を少し離れた目で見ながらも、ひとりの役者として好きなように演じている姿は本当にかっこいいと感じました。人生100年時代、組織の中で働く時間より、自分を主役として生きる時間が多くなっている中で、富島さんの生き方は素敵なモデルだなあと改めて感じました。(岡田)

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