ハラスメント相談の現場からVol.67 「“今、ここ”を生きる」とは?

Vol.67 「“今、ここ”を生きる」とは?

ベテラン販売員のAさんは社内で何度も表彰された優秀なセールスパーソンです。仕事人間をそのままスケッチブックに模写したようなAさん、これまで蓄えてきた販売顧客の分厚いファイルを基に、今後の新たな戦略作りと新規顧客の開拓へ向けて頭の中はフル稼働しています。数日前、そのAさんがとくに目をかけて指導している後輩のBさんが「Aさんの下で仕事をするのはもう限界」と上司に直訴してきました。

以前から「Aさんの指導は相手の状況や能力を無視した一方的な押しつけ」であると感じていたBさんでしたが、数日前に体調を崩し早退を申し出た直後のミーティングでのこと、「高熱で朦朧としているところへAさんからたたみかけるように質問を投げかけられ、言葉が出ませんでした。Aさんは資料に目を落としたまま、無反応の私を無視し、『…じゃ、次。Cさんはどう思う?』と…」。その場にいたAさん以外の誰もがBさんの体調不良に気づき、「大丈夫?」、「早く帰って休んで!」と気遣ってくれたそうです。Bさんは、「Aさんの仕事ぶりに一目置いていたので必死に頑張ってきた」が、「Aさんのすぐ目の前にいる私がどんな状態にあるのか、関心すらないことに大変ショックを受けた」とのこと。Aさんは確かに社内某会議室でのミーティングに参加(場に存在)していたにもかかわらず、「(Aさんは)今、この場にいない」とBさんには感じられたのです。

コロナ禍の収束が見通せず先行きの不安が一向に解消されない中、「 “今、ここ” をどう生きるか」が、にわかにクローズアップされるようになりました。「 “今、ここ” を生きる」とは、書き換え不能な過去でも不透明な未来でもない、確かにある今この場、この瞬間、自分が何をどう感じているのか、自身の内面や周囲に起きていることに焦点を当て、浮かんでくる感覚や感情を実感することです。そして、身内に沸き起こった感覚や感情を確かな拠り所として状況に対応します。Aさんの件で言えば、ミーティングの場でBさんのただならぬ様子にハッとし、Aさん自身の内に生じる心配や不安や焦り…など交錯するさまざまな感情に気づくこと。その後の対応策としては、「とても辛そうだから帰ってゆっくり休んだ方が良い(Bさんの体調の心配)」、「後のことは〇〇さんに引き継いでやってもらおう(今後の業務の不安)」など。

今、この瞬間、肌に触れる空気を感じますか? 今、この瞬間、視界には何が映り周囲にどんな物音が聞こえますか? 今、この瞬間、どんな感情が沸いていますか? 日頃から自身の内面や身の周りに起きているさまざまな事象についてなみなみならぬ関心をもち、観察力を磨いておくことは大切です。過去と未来をつなぐ “今、ここ” を、かけがえのない瞬間にするために。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2020.10)

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