ハラスメント問題第18回 震災後の焦燥感
こちらのアーカイブは、職場のハラスメントに関する解説を事例などを交えて記載しています。パワハラ・セクハラ防止研修の教材や職場におけるハラスメント防止の啓発ツールとして、出典を明記の上、ご活用ください。
(出典記載例:株式会社クオレ・シー・キューブホームページ)
中央労働災害防止協会発行の 【安全衛生のひろば】に掲載された記事をお届けします
事例に学ぶ 人間関係のトラブル
第18回 震災後の焦燥感
電機メーカー開発部門で働く加山直樹さん(仮名、30代)は、人気(ひとけ)の無いオフィスで大きなため息をついた。大震災後、被災地区の工場が一時操業停止していたため、進捗が大幅に狂ってしまった上、節電で残業できず定時帰宅が続いている。次長の小出博さん(仮名、40代)からは、「電気は消したか?!」、「暇なうちにしっかり企画を練っておけ」と再三葉っぱをかけられ、気分的なゆとりはない。さらに気分を重くしているのは、昨年末に出産したばかりの妻が放射能の影響に過敏になっていること。帰宅後、妻と話していると不安やイライラが募る。加山さんの隣席の中藤昭子さん(仮名、20代)は学生時代から続けているボランティア活動の一環で、有休をとり被災地支援に出かけている。「皆が頑張っている時に自分は何やってるんだろう?」と加山さんは焦燥感、無力感に襲われ、暗くなったオフィスでまた一つ大きなため息をついた。
情報共有をしてみては?
3月11日に東日本を襲った巨大災害は、直接、自分や家族に人的・物的な被害があったか否かに関わらず、また被災地からの距離に関わらず、今もさまざまな形で私たちの生活に大きな影を落としています。被災地の過酷な現状を紹介し、国内外からの支援を受けて被災者が必死で立ち上がろうとしている真摯な姿を映し出すメディアに触れ、気持ちを揺さぶられない人はいないでしょう。しかし、その先にある個人の行動、感情、考えは異なり、本ケースでも加山さん、小出さん、中藤さん、三人三様です。抱えているバックグラウンドが異なるのですから違って当然なのですが、加山さんのように周囲から“取り残された”孤立感に陥っている人も少なくありません。職場の身近な人たち同士、「今の自分の状況(状態、気持ち、考え)」について、無理のない範囲で情報共有してみてはどうでしょう。危機的事態に遭遇した時、お互いに必要な支援ができる関係性が築けているかどうか、今一度、見直す大切な機会なのです。
*当原稿は、中央労働災害防止協会発行【安全衛生のひろば】2011年6月号に掲載されたものです。
カウンセラー 志村 翠