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就活ハラスメントの実態と対策のすすめ
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- 2024(令和6)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請等について〔内閣官房ウェブサイト〕
クオレ・シー・キューブでは、2023年8月2日「ハラスメントフリーの日」を迎えるにあたり、「ハラスメントフリーな職場づくり」の新たな切り口として、「就活ハラスメント」について考えていきたいと思います。
(株)クオレ・シー・キューブ 取締役 稲尾和泉 × 就活ハラスメント検討会事務局 木村節子氏
稲尾:
就活ハラスメントは、昨年から政府でも大変、大きな問題と受け止めていて、検討会や報告会など随分と動いているところですが、実態が把握しきれていません。弊社としても、未来の若い世代の人たちが、一番最初にハラスメントに遭っているというのは非常に深刻な問題だと捉えており、そこに課題感を持っています。
そこで今回は、「就活ハラスメント検討会」(座長:法政大学廣川進教授)の事務局を担当されている木村節子さんに、まずは就活ハラスメントの実態からお話をうかがっていきたいと思います。
「就活ハラスメント」というと「オワハラ」というキーワードも耳にしますね。
就活ハラスメント検討会メンバー
木村:
はい。「オワハラ」は、学生側が優位に就職活動を進めているという状況から、企業が「もう就活を終えてください。他の企業は受けないでください」という心理的な圧迫をかけるような行為で、「就活ハラスメント」の一つとして考えられるものです。
この「就活ハラスメント」について実態調査に基づいて状況をお話させていただきますと、まず「ハラスメント検討会」では、2650人ぐらいの方々を対象に、「就職活動でやめて欲しいとか、不快に感じている言動を受けたことがありますか?」とアンケートをとったところ、約41%が「そういう行為を受けた」と回答しています。そのうちの、66件ぐらいが「強くハラスメントが疑われるもの」として見えてきました。
『就活ハラスメント対策のすすめ』(P.33)より抜粋
特に問題なのは、ハラスメントに当たるか当たらないかということではなく、実際には学生が、何かしらのダメージを受けているということです。具体的にダメージを受けた学生(243人)のうち、「不安や怒りを感じた」と回答した人が38%でした。
これは一過性のものとしてとらえることもできますが、実際には「食欲がなくなった「睡眠に影響が出た」「通院するようになった」「卒業や大学の成績に影響が出た」、ひどい場合には「退学や休学」、こういった影響を受けた人が3~10%いたのです。こういったことが大きな問題ではないかと思います。
続いて、「オワハラ」は、実はキャリアセンターなどではたくさんの被害の声が届いているのですが、文部科学省・厚生労働省・経済産業省、三省の合意で「オワハラとはこういうものです」と示されているものの、具体的にオワハラの具体事例が示されていないこともあり、大学側の対応が迷われているのが実態ではないかなと思います。
稲尾:
そうすると、今回調査をやったことで初めてそのパーセンテージや被害状況が可視化され、対策などについては、まだこれから、というところでしょうか。
木村:
今までも、厚生労働省が「就活セクハラ」について、内閣府が「オワハラ」について、点で調査はしているのですが、どのような行為を受けたのか、どのような行為があったのか、相談員がそうした相談を受けた際、大学に対応のための体制は敷かれているのか、そういったところまで、網羅的に調べたのは、私たち、「就活ハラスメント検討会」が初めてではないかと考えております。
稲尾:
世の中では、「就活ハラスメント」や「オワハラ」などのキーワードを耳にすることは増えたけれども、それは断片的な情報であって、先ほど、調査結果の報告にあったような、例えば「体調を壊した」、「成績に影響が出た」などは相当大きな問題だと思うのですが、その辺りはいかがでしょうか。
学生がキャリアセンターに相談するとき
木村:
そうですね。おそらく、学生がキャリアセンターに相談を上げる際、「エントリーシートについて」「面接の受け方について」「内定の承諾について」などは相談をしてもいいと認識していると思うのですが、「不快な言動を受けた」「人格を傷つけられた」「自分の尊厳を否定された」というようなことについて相談をしていいという認識がないのではないか、と思っています。
稲尾:
そうすると、形としての制度をどう利用するか、どういう段取りを踏むかといった相談は入る一方で、「自分の心の傷」みたいなものについては、相談のしようがないというのが実態なのでしょうか。
木村:
相談員やキャリアセンターとの関係性ができている学生はその延長線上で話すことができると思うのですが、それまで接点のなかった学生は、相談のハードルが高いのではないかと思います。
不快な言動を受けた学生の相談先は、キャリアセンターにとどまらず、色々な方々、両親も含みます。ただ、相談した学生は4割以下です。
相談をしなかった学生のうち2割程度は、「相談をすることで、不利益になると思っていた。だから相談しなかった」ので、この辺の誤解はきちんと解いていかなければいけないと思います。
『就活ハラスメント対策のすすめ』(P.40)より抜粋
稲尾:
「ハラスメントを受けた」などと相談したら、もしかしたら就職に大きな影響があるかもしれないと思ったら、声を上げるのは恐ろしいと思ってしまいますね。
木村:
あとは、相当苦しくても、ここで立ちどまっていたら、就職の旬の時期(3~4ヶ月程度)を逃してしまう。
ですから、企業に謝罪を求めたり、解決を求めるよりは、自分の中で抱え込んで、早く内々定、進路先を見つけたいという学生の心理もあると思います。
就活ハラスメントの法整備について
稲尾:
そうすると、こういう問題がなかなか解決しないということになってしまうわけですけれども、ハラスメントで体調を壊す、あるいは自分の人生に大きな影響があるということは、ある程度厳しい法的な問題にも発展する可能性があるように思うのですが、そのあたりは専門家の先生方などはどのようにコメントされているのでしょうか。
木村:
「就活ハラスメント検討会」にはハラスメントの法整備に関する専門家もメンバーとしていらっしゃりコメントも頂いています。今回の調査では、法律的に犯罪にあたるようなものはあまり見受けられませんでしたが、実際には、「内定をほのめかしておいて、他社を断らせたけれども、最終的に内々定を提示しなかった。」というようなケースを私、個人で情報を収集しました。
『就活ハラスメント対策のすすめ』(P.11)より一部抜粋
そういった場合には学生には多大なダメージを与えるわけですから、学生がその企業に対して、損害賠償請求をする可能性もあり、民事上の問題になり得ます。
それから、2019年頃、リクルーターが就活生に対して、優越的な立場を利用してわいせつ的な行為をしましたけれども、こういった性的な関係を強要する、これは強制わいせつ罪や強制性交罪が適用される可能性もあります。
そして、こういった強制性交罪は、行為をした本人に向けられるものですけれども、雇用している企業も使用者の責任が問われるようになりますので、企業がしっかりと防止するべき、法的に対応していく問題だと考えています。
先輩リクルーターの優位性について
稲尾:
ハラスメント防止教育では、管理職による部下指導に関する研修のご依頼を受けることが多いのですが、就活に関しては、例えば入社1~2年目の、いわゆる「リクルーター」が、就活生に対してすごく強いパワーを持っていて、優位な気持ちが働き、それが相手を傷つけている。そのことに気づいていない可能性が大いにあるのかな、と心配しています。
木村:
おっしゃるように、そういった優位性・優越性が発揮されて、リクルーターやOB・OGなどの卒業生によるハラスメントになっていると思います。
おそらく、リクルーターたちが働いている会社からは、「ハラスメントはダメですよ」というメッセージが出されているとは思うのです。
しかしこれが、会社の外で個別に会ったときに、社内であれば抑止が効くものが、社外になった途端、抑止が効かなくなる。要するに、ハラスメント防止のメッセージが、自分の、今向かい合ってる人に必要なメッセージであることがわからなくなってしまうわけです。
ましてや、相手は学生ですから、その優位性・優越性が大きくなっていく。これも自覚していれば、抑止ができると思いますが、無自覚のまま、相手と向かい合っていますから、そういった言動が、起きやすいのだと思います。
こういったことを改めて、会社からも伝えていかないと、個人レベルでの抑止は難しいのではないでしょうか。
面接官によるハラスメント
稲尾:
面接が進んでいったときに、職場のマネージャークラスの方が最終面談に立ち会うようなことが実際にはあると思いますけれども、そういう人たちも、社内では気をつけているけれども、学生や社外の人に対しての言動にどこまで気を配っているか、このあたりはいかがでしょう。
木村:
実際に、就活ハラスメントが一番多く起こる場面は面接になります。
ただ、人事担当者の方々はその辺の理解がある方が多いので、不適切な言動は少ないと想像されますけれども、階層が上になればなるほど、学生に対しての優位性もはっきりと見えてくることもあり、昔は、厳しい言動をすることも面接の中ではあったようです。
『就活ハラスメント対策のすすめ』(P.39)より抜粋
ですから、そういったことを修正せずに面接をすると、例えば、親の職業を聞いたり、「受験勉強を一生懸命頑張って、その大学なの?」とポロッと言ってしまったり、「女性だけど務まるの?」というような性差別につながる言動をしたり、年代や役職が上になられた方で見受けられますので、人事部では役職者の方が面接をされるときには、きちんと意識を持って対応するようにというレクチャーが必須になると思います。
企業が取り組む就活ハラスメント
稲尾:
今回は、大学に対して一緒に就活ハラスメント対策をしませんか?というプレスリリースがされていましたが、今後、企業に対して出されたいメッセージについてお聞きしてもよろしいですか?
木村:
もちろんながら、企業様ではどういった就活ハラスメントが起きているのかは、網羅的に掴んでいらっしゃらないと思いますので、私どもの方で調査をした内容をお示ししたいと思っています。
そのうえで、どういう言動が就活ハラスメントになるのかということに対して、対策を打っていただけることになろうかと思います。
ただ、一番大事にしていただきたいのは、「そういった言動は、言うとまずい」という話ではなく、社内でハラスメント防止の本質が根づいているかどうかです。
上司・部下もしくは、社外の取引先、そして年齢の離れた就活生に対して、人として尊重する、関わり方や、言葉がけなどが当たり前に身についているのかどうか、ということが試される場でもありますので、やはり日頃のハラスメント対策をしっかりしていただく、その上での就活ハラスメント対策になるということを忘れないでいただきたいと思います。
稲尾:
役職はあっても人としては対等、大切な存在という意識が会社に根づいていれば、相手が誰であっても、大切な人であると認識できると思います。私たちはそういうことが根づいていくような職場、自分たちでそれを作っていかれる職場を「ハラスメントフリーな職場」と呼んでいるわけですが、その活動を通じて、就活生が「この会社って素敵だな」、「一緒に働けたら嬉しいな、働けたらいいな」と思ってくれる、そういう会社でありたいですよね。
木村:
学生は「やってみたい仕事」といった観点から企業を選ぶところがありますが、実は、そんなにやってみたいことが明確でない学生もたくさんいるわけです。
その時にどうやって企業を選んでいくのかと言うと、職場の人間関係だったり、人間関係が豊かな職場風土、そういったところを、むしろ社会人よりも感度高く見ていると思います。
稲尾:
そういったところも含めて、会社のブランド、会社の価値というものがどういうところで、さらに上がっていくのか、あるいはそれを毀損してしまうのか、というところに関して、色々なところに目があることを改めて感じながら、活動していかなければいけないと感じております。
私どもも、就活ハラスメントに関して、まだまだこれからいろいろな対策が必要だと思っております。企業の皆さんも、どのような取り組みをされているか、あるいは悩んでいるかなど、ご相談をお寄せいただければ、一緒に考えて、一緒に良くしていきたいと思います。
そして、就活生に対して「ちゃんと人を守る、いい職場にしていく」というメッセージを発信する、そういった活動を続けていきたいと思っております。
ぜひ、関心のある企業の方はお声をお寄せいただけますとうれしいです。
就活ハラスメントに関するお問い合わせは▼こちらまでお願いします。 就活ハラスメント検討会 事務局 新谷(あらや)・木村 メール:shukatsu-harassment-kentokai@oasis3.com ウェブサイト:https://shukatsu-harassment-kentokai.hp.peraichi.com/ |
(2023年7月)
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