ハラスメント・インサイト企業の成長につながるハラスメント対策とは~ハラスメント問題の法整備と今後の展望

企業の成長につながるハラスメント対策とは~ハラスメント問題の法整備と今後の展望

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

ハラスメント問題の法整備と今後の展望

ハラスメント関連法整備の流れ

ハラスメント防止関連の法律は、表で示すとおり、頻繁に改正・更新されている。日本では、セクシュアルハラスメント(セクハラ)が最も早く法制化された。流行語大賞の受賞から10年近く経った1999年、世の中にその概念が定着したタイミングだった。㈱クオレ・シー・キューブ(以下、当社)ではそれ以降、セクハラ相談窓口の設置やセクハラ防止の教育研修の依頼が増えたことを考えると、法整備はハラスメント問題の社会的認知や早期発見、早期対応に大きな影響があることが分かる。

なお、そのセクハラ防止の教育研修の中で管理者がつぶやいた「女性は相談できるところがあっていいね。男性は理不尽なことがあっても相談できないから」という言葉がきっかけとなり、当社は2001年にパワーハラスメント(パワハラ)という言葉を創った。一つの課題に解決策が生まれることで別の課題も浮き彫りになり、さらなる対策の必要性につながっていったケースといえるだろう。

パワハラについては、2020年に労働施策総合推進法※1に盛り込まれることになったが、言葉が作られてから実に20年近くの年月がかかった。その間にも、女性従業員の妊娠・出産・育児などを理由とする嫌がらせを意味するマタニティハラスメント(マタハラ)や働きながら介護する人へのハラスメント行為であるケアハラスメント(ケアハラ)など、休業制度や時短勤務を妨げる行為についても法整備されている。

職場のハラスメント問題に関する主要な法律が整ったことで、それぞれの問題を個別に対応するのではなく、全体を包括するように対策を進めることが求められるようになった。

労働安全衛生の観点

世の中のハラスメント問題への注目度が上がるにつれて法整備も進むことになるのだが、その原動力となったのが労災認定基準の度重なる改正であろう。きっかけは2009年に「いじめ・嫌がらせ」という項目が追加されたことだ。当初からこれはパワハラを想定していたが、当時はまだパワハラの定義もあいまいだったため、一般用語での運用が始まった。

その後、厚生労働省で2011年にパワハラの円卓会議が開催され、同時期にセクハラの労災認定基準が変更されたことから、ハラスメント関連の労災認定数も年々増加していった。2023年9月からは労災認定基準に顧客等からの著しい迷惑行為=カスタマーハラスメント(カスハラ)の項目が加わり、今では精神疾患の労災認定の約5割がハラスメント関連となっている。

表 ハラスメント関連法整備の流れ

この結果が示すとおり、ハラスメント問題とメンタルヘルス不調、それに伴う労災には密接な関係がある。元々は、工場や工事現場などで発生する労働災害を予防する目的で制定された労働安全衛生法も、時代の変化に合わせて精神的な負荷=ストレスの軽減や健康増進への取り組みを含めるようになった。
今では従業員のメンタルヘルス対策として、ラインケアやセルフケアに関する教育研修や、ストレスチェック実施も一般的になっている。

その中で、メンタルヘルス不調の要因としてのハラスメント問題の把握や早期発見・問題解決は、企業の維持発展の根幹としてすでに欠かせない活動となっているのではないだろうか。そのため、産業保健スタッフが従業員からハラスメント相談を受けた場合、会社のハラスメント相談窓口と連携する必要があるが、守秘義務の解釈の違いから対応が遅れたり、不十分な対応で問題が深刻化したりするケースも散見される。今後も早期解決を目指した連携を模索してほしい。

図 精神障害の労災認定の推移

コンプライアンスの観点

ハラスメント問題の相談窓口としては、法務・コンプライアンス関連の部門が担っている企業も多い。近年では経営陣や上司から部下へ違法行為の強要があり、それをハラスメント被害として訴えるケースも多くみられる。これに対して会社が適切に対応しなければ、問題がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)※2を通じて社外に流出してしまう可能性が高まっている。マスコミや週刊誌にそのような不正行為がリークされ、経営陣が謝罪や退任に追い込まれてしまうケースも珍しくない。

そもそも内部通報は、企業不祥事や違反行為を見逃したり放置したりすることが、会社の信用失墜につながることから、それを防ぐ目的で整備されている。 それにもかかわらず「誰が告発したんだ?」と犯人捜しをしたり、通報者を解雇に追いやったりするパワハラが行われ、通報者の働く権利が脅かされる事態が後を絶たない。

このような事態を受けて、2006年に施行された公益通報者保護法は、通報者を保護するという観点から頻繁に改正されている。2025年6月には、通報者の保護を強化する改正案が国会で可決された。内部通報がきっかけとなる通報者の解雇に関与したものは拘禁刑か罰金、また、法人にも罰金を科すなど、事業者側に厳しい刑事罰を導入することになっている。

ここでも、通報内容の守秘義務の範囲について、通報者本人、窓口担当者、経営陣などの間で解釈が異なり、問題解決が遅れたりトラブルに発展したりするケースがある。通報者の不利益取り扱いは厳禁だが、メンタルヘルス不調の懸念があり勤怠にも影響が出ている場合は、産業保健スタッフと早期に連携する体制を整備してほしい。

人材育成の観点

ハラスメント問題は、とかくマイナスをゼロに引き上げる対策だと思われがちだが、むしろハラスメント対策を推進することで、企業の成長や発展に寄与するものとして取り組んでほしい。労働施策総合推進法には「職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように」(第一条(目的)より抜粋)と書かれており、いわゆる『ハラスメント言動の撲滅』はハラスメント対策のゴールではない。ハラスメント言動に煩わされることなく、互いに協力し業務を遂行することで、個々人が成長し能力発揮できるような職場環境を維持することがその目的である。

また、経済産業省で推進している「人的資本経営」や「健康経営」という切り口においても、従業員が健全に能力発揮できるための活動が求められている。そのような職場では、たとえハラスメント問題に発展しそうなトラブルや言動があっても、それに真摯に向き合い、お互いに議論しながら解決策を見いだすことができるようになる。私たちはそのような職場を「『ハラスメントフリー』な職場」と位置付けており、そのためには小さなすれ違いの段階から修正できる関係性を作ることが求められる。

そのような会社風土があれば、会社へのエンゲージメントが向上し、早期退職を防ぎ、中長期的な人材育成が可能となる。自社の次世代を担う人材を育てるためにも、ハラスメント対策を根付かせることはとても重要であり、そのことを経営陣が理解し、率先垂範してほしい。

ハラスメント対策 今後の展望

2025年6月に、カスハラと求職者へのセクハラに関して措置義務が新たに可決成立した。企業にとって、ハラスメント対策は常に情報のブラッシュアップが求められるテーマである。

一方で、根幹となる理念には大きな変化はない。ハラスメント対策とはつまり「人権侵害や人格攻撃となる言動から従業員を守ること」である。相手が上司であっても、顧客や取引先であっても、傷つけられる筋合いはないし、傷つけていい理由もない。

その理念が、ILO(国際労働機関)で2019年に採択された「職場のハラスメント禁止に関する条約」に記されている(https://normlex.ilo.org/dyn/nrmlx_en/f?p=NORMLEXPUB:12100:0::NO::P12100_ILO_CODE:C190内を「日本語 に翻訳」とすると閲覧可能)。

この条約では、ハラスメント言動そのものを法律で禁止することを加盟国に求めているが、日本は残念ながら批准することはできていない。日本におけるハラスメント防止の法律は、あくまで事業主に対する問題解決の措置義務にとどまっている。

日本でも、いずれハラスメント言動そのものを禁止する法律の必要性が検討されることになるだろう。なぜなら、これだけハラスメント問題に対する認識が高まっていても、深刻な事態に発展することが続いているからである。大変残念なことに、実際に盗撮で逮捕者が出てしまうようなケースも散見されるようになった。国によっては、セクハラ言動で逮捕されるケースもあり、グローバル展開している企業ではその認識のずれから大きな問題にもなりかねない。

ハラスメント言動を職場からなくしていく活動には、終わりがない。今後も社内の各部署が連携しながら、継続して取り組んでほしい。

  • ※1 正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
  • ※2 インターネット上で情報を共有でき、人々が交流できる仕組み、メディア

この記事は、弊社取締役 稲尾和泉 による中央労働災害防止協会の月刊誌「安全と健康」(2025年8月号)への連載を掲載しております。なお、一部リライトをしております。

2026年3月

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