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ハラスメント対策最前線職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について(2)
ストレスチェック
前回、注目の動向として、取り上げた「ストレスチェックの義務化」ですが、これが盛り込まれた法案は、いまのところ、廃案となったようです。
ただ、ストレスチェックの実施は「推奨する」ということなので、職場のメンタルヘルス対策強化を目的として、対応を検討しておくことがのぞまれます。
過重労働者への面接
職場のメンタルヘルス対策と並んで、医師の介入が必要な制度としては、「長時間労働者への医師による面接指導」があります。「過労死」、「脳・心臓疾患の発症」を予防するために、過重労働により疲労蓄積した労働者に対し、事業者は医師による面接指導をすることが義務付けられています。
平成20年4月1日からは、常時50人未満の労働者を使用する中小事業場にも義務付けられました。
どういった場合に医師の面接指導が義務付けられているかというと、
『時間外・休日労働時間が1月当たり100時間超えた場合、労働者からの申出により、医師による面接指導を実施する。企業は医師からの意見聴取と、面接指導の結果記録を作成し(5年間保存)、事後措置を実施する。』となっています。
しかし、ただでさえ、過重労働せざるを得ないほど多忙であるのに、わざわざ、時間を割いて、医師の面接指導を受けることが、不本意な労働者は少なくありません。また、心身の不調を会社に訴えれば、なんらかの不利益を被るのではないかと懐疑的になっていることもあります。面接指導の流れの中に、「労働者からの申出」となっていますが、ほとんどの場合、自らの申出はありません。
では、どのようにして、面接につなげたらよいのでしょうか?
まず、企業側は、「過重労働者への医師による面接指導制度」について、きちんと説明する必要があります。この制度について熟知している労働者は、決して多くありません。
医師の面接指導のメリットとしては
① 労働者本人が、過重労働による心身の変化を早い段階で気付く。
② 直接、生活指導をすることで、脳・心臓疾患や心の不調を予防できる。
③ 場合によっては、速やかに専門医へ紹介し、早期治療につなげる。
④ 医師(産業医)との面接を経験し、問題があったときに医師に相談しやすい環境を作る。
⑤ 医師(産業医)は、過重労働の実態を把握し、労働者個人に対する意見だけでなく、職場への意見を述べる。
などが挙げられます。企業側だけでなく、労働者自身にも多くのメリットがあることを、従業員によく知ってもらう必要があります。
そして、面接指導制度は、労働者側の義務ではなく、企業側の義務であり、面接を受けることで「不利益」を被ることはなく、むしろ、「利益」があることを丁寧に説明しておきましょう。
また、1月当たり100時間未満でも、企業(事業場)独自に基準を定め、該当する場合、面接を実施することが、「努力義務」となっています。
たとえば、企業によっては、医師の面接指導実施基準について、時間外労働・休日労働を、
・1月当たり80時間超
・1月当たり60時間超が、2月連続
・1月当たり60時間超かつ本人が脳・心臓疾患の持病あり
などと、決めているところがあります。
できる限り、敷居を低くして、「過重労働者への医師の面接指導」に結び付けることをお勧めします。
長時間労働は、心の不調もきたします。医師の面接指導制度を、うつ病や過労自殺の予防のためにも活用しましょう。
(2013年4月)
苅部 千恵(かりべ ちえ)
所属 (かりべクリニック院長)
1980年 横浜市立大学医学部卒業
1980年 九州大学医学部心療内科勤務(九州大学医学部)
第一内科、第三内科、心療内科にて研修及び研究
1987年 東京大学医学部心療内科勤務
1994年 昭和大学医学部附属藤が丘病院勤務(兼任講師)
1995年 医療法人財団健生会勤務(理事)
1998年 かりべクリニック開業
【所属学会】 日本心身医学会 日本産業衛生学会 日本産業ストレス学会 日本心療内科学会 日本東洋医学学会 日本うつ病学会 |
【資格】 医学博士 労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 心身医療「内科」専門医 |
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