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ハラスメント対策最前線職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について(5)
再び、ストレスチェック制度について
昨年、ストレスチェック制度が盛り込まれた法律案は廃案となったとお知らせしました〔ページ下方、連載(2)参照〕。その後も、メンタルヘルス対策の充実・強化のために、ストレスチェック制度を実施しようという動きはありました。
わが国における職場のメンタルヘルス不調者は急増しており、精神障害の労災認定件数も過去最高を更新し続けて深刻な状況です。メンタルヘルス不調を未然に防ぐために、労働者の心理的な負担の程度を把握する目的で、ストレスチェック制度を導入しようとしているのです。
これまでの情報によると、その廃案となった法律案は、条文が修正、追加され、労働安全衛生法の一部を改正する法律案として再提出される予定のようです。
主な修正点をまとめてみましょう。
① 従業員50人未満の小規模事業場に対しては、猶予措置として、当分の間、努力義務とする。
・・・修正前は、<すべての事業場に対しての義務>でした。
② ストレスチェックの実施者については、医師、保健師だけでなく、厚生労働省令で定める者も含める。
・・・この「厚生労働省令で定める者」には、一定の研修を受けた看護師、精神保健福祉士を含める予定ということです。
③ 精神保健に関する研修の充実と相談・情報提供体制の整備(条文追加)
・国は、ストレスチェックを行う産業医、保健師、その他の厚生労働省令で定める者に対して、その質の向上を図るため、 精神保健に関する研修の充実・強化に努める。
・国は、ストレスチェックを受けた労働者に対して、企業内外の相談・情報提供体制の整備に努める。
④ ストレスチェックの受診義務について
労働者の意に反してまで、ストレスチェックの受診を義務づけることは適当でないとして、労働者の受診義務に関する規定は削除される。
この法律案が可決されれば、企業側は、すみやかにストレスチェックを実施し、その結果から、労働者の希望に応じて、面接指導の実施、事後措置の実施をしなければなりません。導入に向け、早めに体制づくりを行ってください。
わが国の職場のメンタルヘルス対策の課題
今年1月に行われた神奈川産業保健メンタルヘルス交流会で、川上憲人教授(東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 精神保健学分野)の講演を大変興味深く拝聴しました。「職場のメンタルヘルスの今後」―科学的根拠、経営との対話、政策・制度― という演題でした。
未然防止対策の充実、法的リスクマネージメントによる職場のメンタルヘルス対策の限界や課題、経営的視点からの対策の必要性などが語られました。なかでも、興味深かったのは、職場のメンタルヘルスにおいても、根拠に基づく実践が重要だということです。科学的根拠に基づく職場環境改善、科学的根拠に基づく個人向けストレス対策、科学的根拠に基づく管理監督者メンタルヘルス研修が示されました。従業員一人当たりの費用および便益比較では、上司教育が一番低かったのです(産業衛生学雑誌2013)。
つまり、教育の必要性の高い管理監督者集団をまず特定し、その上で、ニーズに合わせた研修を優先して行い、少なくとも1年に1回は実施することが、効率のいい取り組みだと理解しました。
(2014年4月)
苅部 千恵(かりべ ちえ)
所属 (かりべクリニック院長)
1980年 横浜市立大学医学部卒業
1980年 九州大学医学部心療内科勤務(九州大学医学部)
第一内科、第三内科、心療内科にて研修及び研究
1987年 東京大学医学部心療内科勤務
1994年 昭和大学医学部附属藤が丘病院勤務(兼任講師)
1995年 医療法人財団健生会勤務(理事)
1998年 かりべクリニック開業
【所属学会】 日本心身医学会 日本産業衛生学会 日本産業ストレス学会 日本心療内科学会 日本東洋医学学会 日本うつ病学会 |
【資格】 医学博士 労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 心身医療「内科」専門医 |
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