- Home
- ハラスメント情報館
- ハラスメント対策最前線
- 職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について
ハラスメント対策最前線職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について(8)
メンタルヘルス不調者の再休職予防について
最近、メンタルヘルス不調による休職を2回、3回と繰り返す人が増えている印象があります。
以前のこの欄で、産業医科大学の中村教授の講演を取り上げました。
『うつ病のために休職していた人が回復したと判断されて復職しても、6か月間復職継続できた人は4割』という、大学病院の精神科外来診療の結果報告でした。円滑に復職するのは、かなり難しいという現状が示されたわけです。
なぜ、休職を繰り返してしまうのか?その原因や背景はさまざまです。本人が焦って復職を急いでしまった場合や、職場側の受け入れ体制が整っていなかったり、不調者の病状に変化(たとえば、うつから躁状態にうつる)があり治療や対応がうまくできなかった場合や、家庭環境の変化などが考えられます。
ともかく、再休職は、本人にとっても職場側にとっても極力避けなければならないことです。そこで、その予防策を考えてみましょう。
復職の際、検討すべき項目
1) 本人の回復度の確認
・主治医から診断書、仕事上の注意点など就業上の意見書を取得
・職場の復帰判断基準をみたしているか?
・生活リズムや体調をチェック
2) 再発予防のためのチェック
・メンタルヘルス不調に陥った原因を探る
・再発した場合はその再発原因を探る
・予防するために考えられる本人なりの対策、職場側の対策を徹底的に吟味する
以上のことは、産業医面談、人事担当者を交えた面談などで行いますが、本人が申告しやすいように、簡単に記入できるチェックシートを作成しておくと便利です。
また、復職前のうつ病の方に、わたしがよく利用するチェックツールにSASS(Social Adaptation Self-evaluation Scale)日本語版(産業医科大学精神医学教室、国立精神・神経センター武蔵病院)というものがあります。SASSは、1997年にBoscらによって発表されました。主にうつ病・うつ状態の方の社会機能を評価する尺度です。○印をつけるだけの自己記入式で、簡単に社会性の回復の程度を把握できます。仕事への興味、家族や友人とのコミュニケーション状況、地域参加などの20項目から成り立っており、60点満点です。35点以上あれば、社会適応良好とみなします。こういうものを利用することは、回復程度の評価の補助的な手段になります。
ほかにもいろいろな心理テストがありますが、これらはあくまでも補助的な手段です。復職が可能かどうかの評価や判断は、実際の面談により決定されなければなりません。特に、再休職した方の復帰においては慎重に行います。できれば、上記の1)、2)の検討項目について、産業医や人事担当者による複数回の面談を実施のうえ、判断されることがのぞましいと考えます。
ある企業の例では、再休職者の場合は、復職可能という診断書が提出されてから、体調、生活リズムなどの自己記入式の報告書を毎週提出させ、復職可否判断のための産業医と人事担当者の三者面談は少なくとも2回以上実施してから復職が決定されています。正式復帰までに時間はかかりますが、再復職を円滑にすすめるためには必要なことだと思われます。
それぞれの職場特性に合わせた自己記入式評価表の作成や復帰までのルール作りが『失敗しない復職』のための基本となります。
(2015年5月)
苅部 千恵(かりべ ちえ)
所属 (かりべクリニック院長)
1980年 横浜市立大学医学部卒業
1980年 九州大学医学部心療内科勤務(九州大学医学部)
第一内科、第三内科、心療内科にて研修及び研究
1987年 東京大学医学部心療内科勤務
1994年 昭和大学医学部附属藤が丘病院勤務(兼任講師)
1995年 医療法人財団健生会勤務(理事)
1998年 かりべクリニック開業
【所属学会】 日本心身医学会 日本産業衛生学会 日本産業ストレス学会 日本心療内科学会 日本東洋医学学会 日本うつ病学会 |
【資格】 医学博士 労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 心身医療「内科」専門医 |
その他の記事
-
原 昌登
成蹊大学 法学部 教授 -
津野 香奈美
神奈川県立保健福祉大学大学院
ヘルスイノベーション研究科 教授 -
水谷 英夫
弁護士 -
中島 潤
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属 -
稲尾 和泉
クオレ・シー・キューブ
取締役 -
村松 邦子
経営倫理士 -
苅部 千恵
医師