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LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える第2回 職場での取り組みを進めるために
第2回 職場での取り組みを進めるために
「職場環境づくりの一環」という考え方
前回のコラムでは、性の多様性についての基礎知識と、職場・就労での課題をお伝えしました。今回は、それらの課題をふまえて、職場での実践事例をご紹介します。
取り組みにあたっては、「LGBTQの人たちのために何をすべきか」という観点だけではなく、「全ての人のSOGIが尊重される、SOGIインクルーシブな環境とは」という問いかけから考えてみることが有効です。今はLGBTQであることをカミングアウトしている従業員がいない、そのため具体的な施策イメージがわかない、という場合もあるでしょう。そのような職場でも、対象者がいるか(可視化されているか)どうかに関わらず、「全ての従業員のSOGIを、より尊重するための職場環境づくり」と捉えて、取り組みを進めることができます。
また、「職場でのLGBTQ対応」と言うと、「同性のパートナーがいる人のために、配偶者に関する社内規程を変更する」「トランスジェンダーの従業員のために、男女別になっている設備を改修する」といった事例が思い浮かび、大掛かりで、時間や予算の関係でなかなか難しい、というイメージが先行する場合があります。もちろん、中長期的な計画のもとに取り組むべき事項もありますが、身近なところから、すぐに実践できることも多くあります。
実践のための5つのステップ
職場での取り組みを進める
実践のための5つのステップ
- ① 取り組む姿勢の明示・方針の明文化
- ② 相談窓口の周知と対応体制の整備
- ③ 制度や設備の見直し
- ④ 従業員の理解促進・風土醸成
- ⑤ 取り組みや理解の可視化
今回は、実践のステップを5つの項目でお伝えします。1から順に進まなければならない、というものではありませんので、ぜひ、今の職場では何が実践しやすいか、検討してみてください。
① 取り組む姿勢の明示・方針の明文化
まず、「取り組みを進める」と決めた時点でできるのは、「SOGI/LGBTQを重要なテーマのひとつと捉えて、職場づくりにも取り組んでいく」という姿勢を明示することです。新たなメッセージとして発出することも可能ですが、おすすめしたいのは、ダイバーシティ&インクルージョンやサステナビリティに関する宣言や、人権尊重方針、行動規範など、既に明文化されているものの中にSOGIの要素も加える、という方法です。例えば、差別の禁止について定めた文章において、「出自、国籍、エスニシティ、性別、年齢、障害、学歴、信仰、価値観などに基づくあらゆる差別を行わない」と示しているとしたら、「性別」の部分を、「性別ならびに性的指向や性自認、性表現」と書き換えるだけで、SOGI(SOGIE*)の要素を追加することが可能です。(*SOGIE=SOGI+ Gender Expression ジェンダー表現)
また、明示の方法は文章だけに限りません。各職場のマネジメント層の方が、朝礼やチームミーティングなどで、「うちのチームはお互いの違いを尊重しあうことを大切にしている。その中で、性的指向や性自認についても、他の要素と同様に尊重しあえるようにしていきたいと考えている」と話し続けることも、姿勢の明示につながります。
② 相談窓口の周知と対応体制の整備
LGBTQの就労者から寄せられる相談の中で共通するものとして、「職場で困っても、誰に相談すればいいか分からなかった」「対応担当者に理解があるかどうか不明で、適切に対応してもらえるか不安だったので、相談を諦めてしまった」という声があります。皆さまの職場で、SOGIに関して相談できる窓口はあるでしょうか。
ハラスメント相談や人権相談の窓口がある場合、利用案内に「SOGIに関する相談もお受けしています」という一文があるだけでも、相談のしやすさにつながります。また、対応担当者がLGBTQについての研修を受けていること、相談対応にあたってのガイドライン等が整備されていることなども安心につながります。特に、アウティング(本人の許可なく、第三者にセクシュアリティを暴露する行為)の不安により相談をためらってしまうケースも少なくないことから、相談窓口における守秘義務の可視化や、性のあり方を含めた機微な個人情報の取り扱い指針を策定するといったところからも、相談対応体制の整備を検討できます。
③ 制度や設備の見直し
取り組みを進める上で重要なことのひとつに、今の職場環境において、インクルーシブでない箇所の点検と見直しが挙げられます。福利厚生や制度、設備等についても、全ての従業員のSOGIを尊重したものになっているか、という観点からチェックしてみてください。例えば、法律上の婚姻関係に基づく配偶者のみを対象としていた制度について、事実婚の従業員や法律上同性のパートナーがいる従業員にも適用拡大した、というケースがあります。一度に全ての制度を変更することは難しい場合、第1段階では、上司の承認が不要なもの(例:慶弔見舞金、緊急連絡先登録等)について対応し、第2段階以降で、管理職や従業員への啓発を含めて、休暇制度や異動時の配偶者補助等についても順次適用範囲を拡大していく、という複数段階での対応も考えられます。
また、トランスジェンダーの従業員が性別を移行したいと思った場合、どのような対応方針で、どんなサポートが可能かをまとめたガイドライン等を策定している企業も増えてきました。働きながらの性別移行では、職場内でのカミングアウト、お客様への伝達方法(伝えない、という選択も含め)、名前の変更、利用する施設の変更、医療的な処置を望む場合の休暇など、職場での中長期的なサポートが必要となります。性別移行のタイミングで退職せざるを得ない、という状況を避けられるよう、ぜひ各職場で検討を進めていただきたいと思います。
そして、性別移行するか否かに関わらず、男女別に分けられている設備のみだと使いにくい、と感じる従業員もいます。トイレや更衣室などについて性別を問わず利用できる設備があるかどうか、ない場合はどのような対応が可能か、次の改修で何を盛り込むか等、点検と検討を進めておくことで、相談が来た場合に焦らず対応できる土台づくりにつながります。
④ 従業員の理解促進・風土醸成
制度や設備が変わっても、職場で共に働く人に理解がない状態は、働きやすいとは言えません。従業員一人ひとりが自分事として考えられるような研修や情報提供も大切です。とはいえ、新たな研修時間の確保は難しい場合もあるかと思います。そんな時は、既存の社内研修の中にひとつのトピックとして追加するというかたちで伝えることが可能です。具体的には、「ハラスメント防止研修」の中でSOGIに関するハラスメントのケースを紹介しLGBTQの基礎知識にも触れる、「マネジメント研修」におけるダイバーシティ&インクルージョンのテーマのひとつとしてLGBTQを取り上げる、といった方法です。
また、社内報にコラムを掲載する、職場内の各種検討委員会のテーマに加えるなど、研修以外でも日常的に情報に触れ、考えることが習慣化されていくことで、課題の発見や次の施策の起案にもつながります。このような方法は、SOGIに関する取り組みが職場環境づくりの一環であることも伝わりやすく、単発ではなく持続性があるという点でも、ぜひ活用いただきたいと思います。
⑤ 取り組みや理解の可視化
上記でご紹介した取り組みを進める上で、その進捗をどのように可視化するかという点もあわせて検討してみてください。取り組みの可視化は今後への希望や方向性の明示につながりますし、個人単位で理解を可視化することは、職場の心理的安全性を高める上でも重要な要素であると言われています。
LGBTQのテーマについて、自分事として考え、行動する理解者・支援者のことをAlly(アライ)と呼びますが、誰がAllyであるかは当人が表明するまで分かりません。SOGIハラに遭遇した時に毅然と対応する、「パートナー・お連れ合いの方」など性別を限定しない表現を使う、LGBTQの国際的なシンボルである6色の虹のアイテムを身近におく、LGBTQに関するニュースを肯定的に伝えるなど、Allyであることを示す行動が見えるようになることで、「困った時は、この人に相談できるかもしれない」という安心感にもなります。
皆さまの職場状況にあてはめられる事例はあったでしょうか。職場をつくる一人ひとりが、自分にできることを考え、各職場で「どこから始めるか」を対話いただくきっかけとして、本コラムをご活用いただけるとうれしく思います。 次回は、相談を受けた場合の対応や、個人として実践できることについてご紹介します。
(2022年12月)
中島 潤(なかじま じゅん)
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属。
東京外国語大学在学中に、ReBitにて研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を開始。学部卒業後、トランスジェンダーであることを明かして民間企業に就職。営業職を経て、販売企画部門課長職として、予算管理や人材育成、組織体制の強化といったマネジメント業務に従事。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻、修士(社会学)。現在は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行う。
2020年より、LGBTの支援もできる国家資格キャリアコンサルタント養成プログラムnijippoのプログラム責任者をつとめ、コロナ禍ではオンラインキャリア相談などの支援事業を実施。
●監修:『「ふつう」ってなんだ?―LGBTについて知る本』(学研プラス)、『みんなで知りたいLGBTQ+』(文研出版)他
●メディア出演・掲載実績:ドキュメンタリー映画『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき~空と木の実の9年間~』、NHK WORLD、NHK ハートネットTV、TBSラジオ、朝日新聞他
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