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LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える第9回 子どもたちの学びから考える、効果的な研修とは
第9回 子どもたちの学びから考える、効果的な研修とは
「LGBTQ研修をやろうと思うけれど、唐突に感じられるかもしれない」
「LGBTQの社員にとっては、社内周知が不安につながってしまうのでは」
「マイノリティを特別扱いしているように見えてしまうのは避けたい」
職場での研修や取り組みを検討されている担当者の皆さんから、このようなご不安を聞くことがあります。
ここでポイントとなるのは、LGBTQや研修や取り組みの目的は、特定のマイノリティのために特別な知識を詰め込むことではない、という点です。むしろ、本質的な目的は、全ての社員が、「多様性を尊重するとはどういうことか」「人権を守るとは何か」「自分も含めた全員が、自分らしく働くとは」を考え、自分事として実感していくことにあります。
今回は、子どもたちが多様な性を学ぶ際の考え方をご紹介します。教育の分野で、長年の実践によって得られた知見は、職場での学びを考える時にも活用できます。
SRHR―自分のあり方は自分で決める
SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights:性と生殖に関する健康と権利)という言葉を聞いたことはありますか?全ての人に人権があり、それぞれが性のあり方や生き方を主体的に選択する権利を持っている、という考え方です。望まない生き方を強制されることを減らし、全ての人が自分の人生を生きていけるように自己決定権を尊重するための指針でもあります。最近、日本でも着目されはじめたセクシュアリティ教育(包括的性教育)においても、「自分の体は自分のもの」「十分な情報をもとに、自分で選択しよう」といった点を中心として、学びの軸となる考え方になっています。
SRHRの考え方に基づくと、社会においては、「自分も、相手もその人らしく人生を送る権利があること」が確認できます。職場においても同様です。自分の生き方を選ぶ自由は「特別な権利」ではなく、誰にとっても当たり前に保障されるべき基本的人権であり、自分も同僚も、その人らしく働く権利を持っていること、性のあり方もその権利の中に含まれていることを確認し合うことがスタートです。各自の選択が尊重される環境づくりは、性別役割分業の見直しや、慣習的な男女分けの再検討など、ジェンダー平等の実現にもつながります。
UNESCO「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」
国際的なセクシュアリティ教育の指針として知られるUNESCOの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」でも、学びの出発点は「自分の体や性は、自分にとって大切であり尊重されるべきものと知ること」とされています。このガイダンスは、科学的に正確で、人権やジェンダー平等を基盤とした性に関する知識やスキル、態度や価値観を、年齢や成長に即して、包括的なカリキュラムに基づき学習する権利を保障することを目的としています。ガイダンスにおける発達段階別の学習の流れは、大人が学ぶ際にも参考になります。
5歳~8歳:小学校低学年
「自分の体は自分のもの」であり、友達の好きなことや家族の形は人それぞれで良いことを学びます。からかいやいじめは相手の尊厳を傷つけることだと知ることが最初の一歩です。
9歳~12歳:小学校中高学年
男らしさ・女らしさといった固定観念の弊害を理解し、性的指向や性自認は人によって異なると学びます。いじめに対してどう行動できるかを考えるようになります。
12歳~15歳:中学生
差別されやすい集団としてLGBTQの存在を学び、社会課題を背景に「アライ(LGBTQの理解者・味方)として何ができるか」を考える段階に進みます。人との違い(例:妊娠や健康の状態、経済的立場、民族、出自、ジェンダー、性的指向、性自認、その他の違い)を理由としたスティグマ(恥と罪の意識)や差別は、失礼なことであり、幸福を害し、人権侵害であることを学びます。
15歳~18歳:高校生以降
法律や制度といった社会構造に踏み込み、どのように社会をインクルーシブに変えていけるかを議論します。全ての人が尊厳を持って、大切に扱われるような安全な環境の実現のために働きかける責任があることを知ります。
研修への活かし方
上述のような学びのステップを職場における研修に応用すると、下記のような段階別の学びのテーマが企画できます。
- ① 性のあり方は誰にとっても人権であると知る
SRHRに基づき、誰もが自分の体や人生を選ぶ権利を持っていると理解する。 - ② 多様性について知り、自分もその一員であると知る
性的指向・性自認・性表現(SOGIE)はすべての人が持つ要素であり、全ての人のあり方は尊重される人権であり、自身も多様性の中の一員であることを学ぶ。自身の「自分らしさ」についても考える機会を持つ。 - ③ LGBTQが直面する課題を知る
職場での差別や困難の現状を知る。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)やマイクロアグレッションを防ぐための正しい知識を得る。 - ④ 自分にできることを考える
「アライ」としてどんな行動ができるかを具体的に考える。個人のレベル、組織のレベル双方で、行動の計画を立て、定期的な振り返りの機会を設ける。
この順番を踏むことで、「LGBTQについて学ぶ」という研修から、多様性の尊重を自分ごととして考え、職場文化を変えるための実践につなげる研修へと深化していきます。
インクルーシブな職場は誰にとっても働きやすい
最後に改めて確認しておきたいのは、LGBTQの社員が働きやすい職場は、全ての社員にとって働きやすい職場だということです。職場の心理的安全性が高まり、ハラスメントが起きにくくなることは、エンゲージメントや生産性の向上にもつながります。実際に、心理的安全性の高い職場環境はパフォーマンスが高くなることが多くの研究で示されています。
例えばGoogleのプロジェクト・アリストテレスでは、成果を上げるチームの最大の要因は心理的安全性であると報告されています。多様性が尊重される環境をつくることは、こうした組織力の向上とも直結しており、「マイノリティのため」ではなく、「組織力の向上のため」と言えるのではないでしょうか。
LGBTQをはじめとしたダイバーシティに関する研修は、「特別な人について知るため」ではなく、人権を尊重する文化を根づかせるための学びです。社員一人ひとりが「多様な人と共に働いていて、自分もその中の一員なのだ」と感じ、お互いのちがいを尊重できることは、職場と個人の人生の双方にとって、豊かさにつながると感じます。
このコラムを読んでいただいている方の中には、研修を企画される立場の方も多いと思います。「やらなければいけない研修」があるとしたら、「その研修をやって、自分も出席者も興味が深まる内容にするには?」を検討のきっかけにしていただければと思います。
UNESCOの国際セクシュアリティ教育ガイダンスを含め、教育に関する資料や資材は、オンラインで公開されているものも多くあります。ぜひご覧ください。
(2025年8月)

中島 潤(なかじま じゅん)
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属。
東京外国語大学在学中に、ReBitにて研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を開始。学部卒業後、トランスジェンダーであることを明かして民間企業に就職。営業職を経て、販売企画部門課長職として、予算管理や人材育成、組織体制の強化といったマネジメント業務に従事。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻、修士(社会学)。現在は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行う。
2020年より、LGBTの支援もできる国家資格キャリアコンサルタント養成プログラムnijippoのプログラム責任者をつとめ、コロナ禍ではオンラインキャリア相談などの支援事業を実施。
●監修:『「ふつう」ってなんだ?―LGBTについて知る本』(学研プラス)、『みんなで知りたいLGBTQ+』(文研出版)他
●メディア出演・掲載実績:ドキュメンタリー映画『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき~空と木の実の9年間~』、NHK WORLD、NHK ハートネットTV、TBSラジオ、朝日新聞他
その他の記事
- 原 昌登
成蹊大学 法学部 教授 - 津野 香奈美
神奈川県立保健福祉大学大学院
ヘルスイノベーション研究科 教授 - 水谷 英夫
弁護士 - 中島 潤
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属 - 稲尾 和泉
クオレ・シー・キューブ
取締役 - 村松 邦子
経営倫理士 - 苅部 千恵
医師