ハラスメント問題第23回 ベテランが畑違いの部署へ異動に
こちらのアーカイブは、職場のハラスメントに関する解説を事例などを交えて記載しています。パワハラ・セクハラ防止研修の教材や職場におけるハラスメント防止の啓発ツールとして、出典を明記の上、ご活用ください。
(出典記載例:株式会社クオレ・シー・キューブホームページ)
中央労働災害防止協会発行の 【安全衛生のひろば】に掲載された記事をお届けします
事例に学ぶ 人間関係のトラブル
第23回 ベテランが畑違いの部署へ異動に
保険会社で商品開発に携わる加藤慎二さん(仮名、40代)は会議後、軽いめまいに足をとられた。入社以来、一貫して営業畑を歩んできた加藤さんは今春、現職へ異動となり、入社20年目にして新たな領域へ足を踏み入れた。“足で稼ぐ”ことにかけては自信のあった加藤さんも、この半年間は余裕がなく無我夢中でやってきた。職場で飛び交う用語一つにしても、「え、どういう意味?」と後でこっそり同僚に聞いたり、専門書で調べたりした。資料の作り方、会議の進め方なども勝手が異なり、その都度、過去の資料や議事録を検索するうち、遅くまで残業することが多くなった。最初の数か月は周囲に気軽に何でも聞いていたが、さすがに半年も経つと「こんなこと聞けないよな…」とプライドが頭をもたげてくる。 先の会議で部長から「現場のニーズが反映されてないぞ」とクレームが出た。“営業一筋20年のキャリア”を期待されているのは重々承知している。応えられない自分に歯がゆさと情けなさを感じた途端、加藤さんは動悸に襲われ机に突っ伏してしまった。
「軽くクリアできるはず」の落とし穴
“中堅”、“ベテラン”と称される人たちにも転機は訪れます。そして、それは学生から社会人へと踏み出す大きなステップに比べて歩幅は小さく、軽くクリアできるはず、と思われがちです。実際、年齢を重ねて経験を積めば積むほど、仕事のみならず生活全般において選択肢の幅が増え、余裕が生まれるものです。しかし、味方につけたはずの年齢や経験が、「良い歳して…」「新人じゃないんだから…」「できて当たり前」と牙をむき、後へ引けない状況へと追い込んでくることがあります。加藤さんの場合、「今さら…」「こんな簡単なことさえ…」と目の前のハードルを低く見積もり、それすら飛び越えられない自分が許せず、身体の不調まで来してしまったのです。「今の年齢だからこそ」「経験は生きてくる」と仕切り直し、味方の陣地を固めることが成功体験へとつながります。
*当原稿は、中央労働災害防止協会発行【安全衛生のひろば】2011年11月に掲載されたものです。
カウンセラー 志村 翠