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ハラスメント・インサイトパワハラを招くリーダーシップ 注目集める謙虚な上司 放任型は発生リスク4倍
パワハラを招くリーダーシップ 注目集める謙虚な上司 放任型は発生リスク4倍
この記事は、労働新聞〔中小企業も実現できる!ハラスメントのない職場〕の連載を許可を得て全文掲載しております。
優しく穏便が逆効果
職場のハラスメント問題については世界中で研究がなされており、近年はその知見も増えてきている。なかでも、パワハラ行為者のタイプに関する研究は注目度も高い。誰もがパワハラ行為者にはなりたくないが、その傾向がないか自信を持てないからだ。最近ではさまざまなパワハラチェックリストが紹介されているが、一人ひとりのパワハラ行為者になる確率をチェックするだけでは、パワハラを防ぐことはできない。
なぜならパワハラリスクには個人的な要因だけでなく、上司のリーダーシップもかかわっているからだ。そこで、今回はパワハラ行為者ではなく、上司の「リーダーシップ形態」によってパワハラの発生状況に違いが生まれるかに注目した研究について紹介したい。
結論からいうと、リーダーシップ形態によってパワハラの発生状況は異なる。なかでも、パワハラを引き起こすリーダーシップ形態の二大巨頭といわれるものが存在する。それは「専制型」と「放任型」である。(図)
「専制型」とは、独裁者のように部下を支配し、暴言と威圧的言動で何が何でもいうことを聞かせようとするリーダーシップ形態で、不安と恐怖で相手をコントロールしようとする典型的なパワハラ上司といえる。パワハラという言葉ができてから、このようなやり方は問題であることが広く認識され、改善された職場もあることは喜ばしい。
他方、「放任型」のリーダーシップ形態とは、部下同士がトラブルを起こしても介入しなかったり、問題の解決について決定を下さなかったり、部下に問題行動があっても指摘しないというものだ。これは最近懸念されている「ハラスメントといわれないように、優しく穏便に部下に接していれば良い」と考える上司が行っている可能性が高い。
放任型のリーダーシップを示す上司のもとでは、半年後にパワハラが発生するリスクは4・3倍、メンタルヘルス不調になるリスクも2・6倍に跳ね上がるという研究結果もある。その原因は、放任型上司のもとでは問題が山積し、それを解決しようと同僚同士でリーダーシップを取り合うような形でパワハラが頻発してしまい、それに上司が介入しないことでメンタルヘルス不調者が出てしまうという、負のサイクルに陥る可能性が高くなるからではないかと考えられている。
つまり、相手を威圧して思いのままに行動させようとするリーダーシップだけでなく、部下に優しく接しつつも何も解決しないリーダーシップも、結果的にパワハラを生み出してしまうのだ。
もう1つ、個人の性格特性がどうであれ、他者よりも強いパワーを持つと陥る罠がある、という研究結果を紹介したい。ポジションが高い者が低い者に対して陥りやすい心理的状況やパターンがあるというものだ。それは、①相手を見下してモノ扱いするような心理状態、②自分だけはルールを犯しても咎められないという錯覚、③弱者の存在そのものに注目しない傾向、④油断をして相手の実力を見誤ること、⑤規則やルールを無視する頻度の高さ、⑥支配欲の高まり、⑦盲目的にハイリスクな野心を持つこと――などである(『コンフリクトマネジメントの教科書』〈東洋経済出版社、2020年〉より筆者が抜粋、要約)。
多くの会社組織は、企業規模にかかわらず役割と権限によりピラミッド構造になっており、上司側がこのような心理的状況になることは容易に想像できる。また、同僚同士であっても経験の差などで上下関係は自然と出来上がったりもするので、パワーの罠に陥れば、経営者や管理者といった強い職権を持っていなくても、誰でもパワハラ行為者になり得るのだ。このように捉えることは「パワハラ行為は行為者個人の性格に問題がある」と思いがちな風潮に一石を投じるものである。個人の問題と片付けず、リーダーシップ形態を再構築することで、パワハラを予防できる可能性があると考えたい。
間違いを認める強さを
従来型のリーダーシップは、高い目標を設定し、メンバーを叱咤激励しながら高みに導くようなイメージが強い。これは専制型リーダーシップやパワーが強いものが陥る罠にはまりやすく、組織としての効果は出ないどころか退職者が続出し、企業の存続を危ういものにしてしまう。一方で、放任型で何もしないリーダーシップは、そもそもリーダーとしての役割を果たしていない点に問題がある。
では一体どうすればよいかというと、近年では「ハンブルリーダーシップ=謙虚なリーダーシップ」に注目が集まっている。謙虚なリーダーシップとは、同僚や部下に学び、失敗を認め、許容しながら、柔軟に世の中の変化に対応していくあり方を指している。(『謙虚なリーダーシップ』英治出版、2020年)部下の意見に耳を傾け、異論や反論をお互いに共有しながら、これまでの常識にとらわれることなく、新たなルール作りやサービスの創出に生かすようなマネジメントスタイルは、パワハラ予防にも効果を発揮するだろう。
経営者であっても、管理者であっても、人は誰でも間違いを犯すことはある。時には感情的になり、パワハラのような言動をしてしまうこともある。そのような時は、それらの過ちを素直に認め謝罪したり、どうしたら良いか悩みを相談して新たな道を模索したりすれば良いのだ。自分の弱さを認めるには強い心が必要だが、高い地位に就けば就くほど余計なプライドが邪魔をする。自分自身の弱さや未熟な部分の存在を認めず、それに蓋をして強がってみせていないだろうか。
失敗を失敗と認めず、方向転換をしないことが強いリーダーだと勘違いしていないだろうか。あるいは、パワハラといわれることを恐れて無関心を装ってはいないだろうか。このようなリーダーシップ形態は、組織を混乱させ、会社を衰退させる要因となる。
コロナ禍で明らかになったのは、過去の経験を生かすことが難しくなったという現実である。今こそ、これまでの経験や常識の殻を破って、新しいリーダーシップを身に付け、新たなマネジメントスタイルにチャレンジする良い機会だと捉えてほしい。
労働新聞 第3354号 令和4年(2022年)5月30日
執筆:株式会社クオレ・シー・キューブ 取締役 稲尾 和泉
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