ハラスメント・インサイトリスキリングとは?~導入検討にあたって意識すべきこと~

リスキリングとは?~導入検討にあたって意識すべきこと~

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

これまでの連載はこちらをご覧ください。

2030年までに世界10億人のリスキリングを実現すると宣言した2020年のダボス会議。第4次産業革命に伴う技術革新に対応するためといわれ、人的資本経営で語られる5つの共通要素にもリスキリングは盛り込まれています。従業員に学びなおしの機会を与え、今後需要が高まるといわれるITビジネスに人材を投入しよう、という意味合いで使われることが多い印象です。

一方で、今ある業務のすべてがIT、AI化されてしまうわけではなく、やっぱり人が携わらなければならない仕事は残ります。人材育成や感情労働を伴う業務分野においての学びなおしも、やはりリスキルととらえるべきでしょう。

今から20年以上前ですが、当時私は電機メーカーに勤務しており、商品企画の仕事に10年ほど携わっていました。この仕事は組織のトップから新入社員まで様々な人と関わりながらプロダクトを動かしていくので、職場の人間関係のこじれで業務が滞る体験が何度もありました。そのことから、働く人の能力発揮の支援に関心を持ち、20代半ばで仕事を続けながら平行して産業カウンセラーの資格を取りました。

その後も勉強を続けながら商品企画の仕事をしていたのですが、ある時上司から昇進試験を受けるよう打診があり、あまり気乗りしないものの受験することにしました。その論文に「これからの時代はキャリア教育と従業員のカウンセリングが重要になる」という趣旨を書いたところ、査定をする3人の課長からは「不合格」との連絡が。その理由を見ると、「現在の業務との関連性が見られない」「スキルアップという視点が欠落している」「この業務がどのように会社に役に立つのかわからない」といった散々なコメントばかりが並んでいたました。この時感じたのは、私の論文の稚拙さと同時に、「今の業務と将来のビジョンにズレがあると評価されないのか」という違和感でした。この出来事は、私にとって大きな転機となり、その後転職を経て現在に至るのですが、今は逆の立場から同じようなことをしないよう気をつけたいと思っています。

リスキリングとは、今、その従業員が直接従事している仕事に関連していることだけでなく、将来的なビジョンも含めて投資すべき段階にきています。果たして評価者は、それを見越して部下たちの背中を押すことができるでしょうか。VUCA時代のビジネスは常に変動しています。会社の都合ばかりを優先して、部下目線からは見えているかもしれない小さな芽を摘み取ることがないように、幅広く推進していきたいものです。

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(2022年11月)

プロフィール

稲尾 和泉(いなお いずみ)
株式会社クオレ・シー・キューブ 取締役

2003年4月より株式会社クオレ・シー・キューブにてカウンセラーおよび主任講師。産業カウンセラー/キャリア・コンサルタント、精研式SCT(文章完成法テスト)修士、日本産業カウンセリング学会会員。厚労省「パワーハラスメント対策企画委員会」委員、人事院「公務職場におけるパワー・ハラスメント防止対策検討会」委員などを歴任。官公庁や民間企業における研修講師として登壇、全国紙・専門誌での執筆、インタビュー多数。専門はハラスメント、女性活躍推進、ダイバーシティなど。

著書

『上司と部下の深いみぞ~パワー・ハラスメント完全理解』(紀伊国屋書店)共著、『あんなパワハラ こんなパワハラ』(全国労働基準関係団体連合会)著、『パワーハラスメント』(日本経済新聞出版社)共著など多数。

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