ハラスメント・インサイトこれからの健康経営~100%のパフォーマンスを求めない~

これからの健康経営~100%のパフォーマンスを求めない~

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

これまでの連載はこちらをご覧ください。

今年の夏は、特に連日の暑さが体にじわじわとダメージを与えたような気がしています。そして最近では、朝晩の寒暖の変化によって体調を崩す人も増えています。かくいう私も鼻と喉の風邪を引いてしまいました。

誰もが、いつでも元気で100%のパフォーマンスを出せればいいですが、残念ながらそうはいかないのが現実世界。体格や体調もひとそれぞれ、年齢やライフイベントの影響も受ける私たちは、120%の力を出せるときもあれば、頑張っても60%くらいしかできないときもあります。しかし、「とにかく全力でやれ」「手を緩めるな」など、常に100%であることを求めている上司や会社も多いのではないでしょうか。定年再雇用の人材を、若手の同僚が「使えない」「邪魔になるから帰って」などのパワハラを行うケースは、今でも報告されています。人材不足の中で、残業もいとわない「働き盛りの男性」を標準とするような評価でよいのでしょうか。

人的資本経営がクローズアップされる前から、経産省は「健康経営」に注目し、さまざまな施策を打ち出しています。「健康経営優良法人認定制度」実施の基礎となる「健康経営の推進について」(経産省・令和4年)資料によると、2060年の日本は高齢化比率が35%を超える「超超超高齢社会」であり、2010年をピークに減少に転じた人口は、明治初期の人口まで急激に減少する(約5000万人)というシミュレーションとなっています。そのような社会の変化に対応するには、人生100年時代における健康年齢を引き延ばし、「生涯現役社会」を実現するべく、健康経営を実施するよう促しています。

この先の少子高齢化を見据えて、健康経営を目指す企業はますます増えていくことでしょう。その実現のためには、常に100%を求めるような指導法は、すぐに改めたほうがよいでしょう。なぜならば、年齢を重ねれば体力の回復も遅くなり、頭の回転や作業効率が落ちていくのは自然なことだからです。生涯現役ということは、60歳どころか70歳を超えても、多くの人が現役で働いている世界です。「いつも100%でなくて大丈夫」という職場を今から作っておかないと、パワハラ上司だった自分こそが、将来パワハラ被害者となってしまうかもしれません。

多様性を生かした職場づくりは、今いる人材の能力発揮はもちろんのこと、将来の自分のためでもあることに、気づいてほしいと思います。

2023年10月

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