ハラスメント・インサイトSNSとハラスメント

SNSとハラスメント

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

これまでの連載はこちらをご覧ください。

SNSの広がりは、私たちの生活を大きく変えるインパクトがありました。いつでも、どこでも、誰もが、写真や動画を撮ることができ、今感じた思いを記録して、発信できて、それを自分の好きなタイミングで気に入った情報だけを選んで受け取ることができる世界。私が子どものころには、こんなことができるなんて考えられませんでした。

この世界がもたらしたのは、自分を認めてくれる、安心できる「場所」ではないかと思っています。住んでいる土地や国を超えて、個人がもつ感性や趣味、思考、価値観でつながりあえることは、私たちを孤独から解放し、声なき声をつなぎ合わせる役目を担っています。#metoo のムーブメントは、このSNSが最大限に生かされた結果であり、これまで可視化されなかったハラスメントや犯罪行為の卑劣さにフォーカスが当たったことで、職場におけるハラスメント対策の重要性も再認識されることになりました。

一方で、この居心地の良さが当たり前になると、それを乱されることは不安を呼び起こします。心理学では「フォール・コンセンサス効果」とよばれ、自分の信じる世界こそが常識だと思ってしまうと、それとは異なる意見や価値観を受け入れられず、攻撃的になってしまうことがあります。セクハラや性犯罪被害者に向けられる「被害者も悪い」というセカンドハラスメントや、加害行為をしたと報道された人に対する過剰な攻撃に歯止めが利かなくなる現象は、SNSがもたらす「居心地の良い場所を失いたくない」という気持ちが働いているように思います。

裏を返すと、それだけ自分の存在に自信が持てない、安心できる場所が少ないということかもしれません。五感をフルに使う現実の世界で確かな信頼関係を作り上げることなく、
不確かで実体がないアバターでつながりあう世界は、想像以上にもろく、お互いを傷つけてしまいます。生身の人間として交流しながら、お互いを大事にできる現実の場所を、自分たちで作れる世界や職場を目指したいものです。

2024年2月

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