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ハラスメント対策最前線職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について(4)
過重労働における面接指導について
最近、過重労働者への面接指導のご依頼が増えました。その際、労働者からいろいろと質問をされ、私も産業医として様々なことに気づかされましたので、ご報告します。
面接に来た労働者の方は、産業医である私にいろいろと質問します。
・「どういう基準で、面接指導になってしまったのか?」
・「こういう指導を受けたことが、今後、なんらかのペナルティーにならないか?」
・「超多忙で、ゆとりが無い時に、面接指導のために時間が取られるとは、どういうことなのか?」
・「確かに時間外労働は多いが、顧客先の都合であり、納期が決まっているので仕方がない」
・「こういう面接で、どこまで相談していいかわからない」
・「産業医が仕事内容を変えられるわけではないから、本当に面接の意味があるのか?」
・「ほかの人と比べると、仕事が遅いがどうしていいかわからない」
・「パートの人たちに仕事が任せられず、一人で抱え込んでしまい、気がつくと毎日深夜まで勤務しなければならないので、改善は難しい」
・「以前、心筋梗塞をやったが、そのために特別扱いはされたくない」
・「深夜に夕食を摂るせいか、どんどん体重増加している。減量は難しい」
・「営業職のため、直行直帰することや出張多く、時間外労働をどうチェックするかわからない」
私は、面接に当たって労働者本人に必ず面接指導の意義、目的、こちらの守秘義務などを伝えますが、ご本人は総じて「面接を受けることが不本意」という印象の方が多いのです。面接指導に関しては、企業側が積極的に促しているようですが、面接が必要である理由については、まだまだ事前の説明が不足しているように感じています。
企業におけるリスク管理の重要な位置づけにあるのは、過重労働対策とメンタルヘルス対策です。過重労働者への面接については以前にも企業側の面接のすすめ方、面接指導の意味について説明しましたが、実際に面接指導をしていると、まだまだ周知が足りず不安や不満を抱えている方が少なくありません。
以下のポイントについては、繰り返し全従業員に周知するべきでしょう。
・面接指導の対象基準(対象者の選定)は何か。
・面接の目的は、過労死・過労自殺の未然防止と脳・心臓疾患、メンタルヘルス不調の早期発見、早期対処であること。
・産業医の役割は、時間外労働による心身への負荷の程度をチェックし、生活指導、健康管理についての助言・指導を行い、必要に応じて職場側にも意見を述べることであること。
・面接指導を受けることで、人事、処遇において不利益を被ることがないということ。
労働者を取り巻く環境は、一人ひとり異なります。家庭の状況によって食事時間も違います。それらも含めて、過重労働による心身への負担度、個別の状況に合った面接指導を行っていることがわかれば、面接の際の労働者の不安も和らぐことでしょう。
メンタルヘルス対策について
先日、メンタルヘルスに関する講演をしました。休職者が職場復帰可能かどうかの判断基準について話しましたところ、そのときの参加者の中では、休職開始時に、休職者本人へ <職場への復帰可否の判断基準>を伝えている企業は、ほとんどないことがわかりました。
メンタルヘルス不調で休職した場合、職場復帰が重要なポイントです。
本人、主治医、職場の三者が、<職場復帰可否の判断基準>をあらかじめきちんと認識し、共有しておかなければなりません。したがって、各企業独自の復職判断基準を作っておく必要があります。
厚労省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」より、<職場復帰可否の判断基準>の例を記載します。
① 業務遂行能力の程度と職場の受け入れ態勢の程度の組み合わせで判断する。
② 例としては以下のとおり。
・十分な就労意欲を示していること
・一人で安全な通勤ができること
・勤務日に継続就労が可能なこと
・必要な作業ができること
・睡眠覚醒リズムが整っていて、昼間に眠気がないこと
・業務に必要な注意力・集中力が回復していること
このように、明確に基準を作ったうえで、当事者間で確認、了解を取っておけば、復職判断時にトラブルになることを防ぐことができます。
円滑な職場復帰支援のための参考にしてください。
(2013年12月)
苅部 千恵(かりべ ちえ)
所属 (かりべクリニック院長)
1980年 横浜市立大学医学部卒業
1980年 九州大学医学部心療内科勤務(九州大学医学部)
第一内科、第三内科、心療内科にて研修及び研究
1987年 東京大学医学部心療内科勤務
1994年 昭和大学医学部附属藤が丘病院勤務(兼任講師)
1995年 医療法人財団健生会勤務(理事)
1998年 かりべクリニック開業
【所属学会】 日本心身医学会 日本産業衛生学会 日本産業ストレス学会 日本心療内科学会 日本東洋医学学会 日本うつ病学会 |
【資格】 医学博士 労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 心身医療「内科」専門医 |
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