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ハラスメント対策最前線職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について(7)
睡眠障害について
「よく眠れてますか?」
というキャッチコピーを目にしたり、耳にした方も多いと思います。これは、うつ病や自殺予防キャンペーンでよく使われるコピーです。うつ病の典型的な症状には、「慢性不眠」「食欲不振」「気力低下」などがあります。そのなかで、まず、「不眠」に注目してもらい、うつ病予防につなげようという狙いでしょう。
今回は、睡眠障害(不眠)とメンタルヘルスの関係について、述べてみたいと思います。
最近では、日本人の5人に1人が睡眠についての悩みを抱えているといわれています。不眠症においては、単に睡眠の時間や質の問題より、日中の生活機能障害を重視します。最適な睡眠時間というのは、個人差が大きく、年齢や季節でも変化します。首都圏の成人の平均睡眠時間は6~7時間といわれていますが、日中に眠気がなく元気に生活できる睡眠時間がその人の最適睡眠時間といえるでしょう。
どうして睡眠は必要なのでしょうか?
人間の脳は巨大化し、進化しました。起きている間、脳は活動し続けて大量のエネルギーを必要とするため、疲弊しやすいのです。そこで、睡眠をとることで、脳がオーバーヒートしないようにしています。
不眠が続くと、血圧上昇、免疫機能低下、糖代謝の乱れ、集中力低下、記憶力低下などを引き起こします。
特に、労働者にとって良質な睡眠をとることは重要です。慢性的な睡眠障害は、心身の健康を蝕むだけでなく、労働生産性の低下や事故にもつながるからです。アメリカで起きたスリーマイル島事故(1979)、チャレンジャー号爆発事故(1986)は睡眠不足による作業ミスといわれています。慢性不眠者は一般人に比べ、産業事故リスクは8倍とされ、睡眠障害による社会的損失は多大です。
不眠の原因
過重労働では物理的に睡眠時間が十分にとれず質も悪くなりますし、メンタルヘルス不調者は心理的ストレスによる影響で不眠になります。そのため、うつ病や神経症では、典型的な症状として不眠が挙げられます。気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、頻尿などの身体疾患でも、睡眠は妨げられます。このほかにも騒音、温度などの環境要因も考えられます
職場でも「睡眠」にもっと関心を
長時間労働がなかなか改善されない職場が多い中、当然個人の睡眠の量や質も低下している可能性があります。そのような状態で仕事をしても、生産性が上がらないばかりでなく、うつ病発症により労災や裁判のリスクも高まります。
「過労死ライン」といわれる月80時間以上の時間外労働の基準が、‘毎日の睡眠時間が5時間を切るラインである’とされていることを考えれば、職場のメンタルヘスル対策には、睡眠時間の把握と改善は不可欠でしょう。
一方で、睡眠時間の確保は個人の責任と考える人は、口出しされたくない、口出ししづらい、と感じることもあるでしょう。睡眠はセルフマネジメントが基本ですが、職場としても「良質な睡眠がお互いの仕事をよりよいものにする」という共通認識を育むことで、一人ひとりが睡眠について関心を持てるような働きかけをしていくことができます。
「徹夜しちゃった。」「残業続きで寝不足で。」という言葉が自慢話になるのではなく、改善が必要な事態であるということを、もっと知ってほしいと願っています。
(2014年12月)
苅部 千恵(かりべ ちえ)
所属 (かりべクリニック院長)
1980年 横浜市立大学医学部卒業
1980年 九州大学医学部心療内科勤務(九州大学医学部)
第一内科、第三内科、心療内科にて研修及び研究
1987年 東京大学医学部心療内科勤務
1994年 昭和大学医学部附属藤が丘病院勤務(兼任講師)
1995年 医療法人財団健生会勤務(理事)
1998年 かりべクリニック開業
【所属学会】 日本心身医学会 日本産業衛生学会 日本産業ストレス学会 日本心療内科学会 日本東洋医学学会 日本うつ病学会 |
【資格】 医学博士 労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 心身医療「内科」専門医 |
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