創立30周年記念コンテンツ
事業創出をベースにしたイノベーティブな人財づくり
日本ATM株式会社 代表取締役社長 中野裕様より「事業創出をベースにしたイノベーティブな人財づくり」についてお話をいただきましたので、ご紹介いたします。
日本ATM様には、私どものハラスメント社外相談窓口やハラスメント対策に関するコンサルティングをさせていただいており、また、女性活躍推進の一環で私どもが提供しておりました事業開発のプログラムでも多くの社員の方々にご参加いただきました。
弊社代表・岡田康子との「ビジョナリー対談 Vol.9」でもご協力いただいております。
中野 裕 氏プロフィール
日本ATM株式会社
代表取締役社長 中野 裕
上智大学理工学部卒業後、外資系コンピューター企業「日本NCR」に入社。ファイナンシャル・システム、ニューウェイ・オブ・コンピューティング、金融システム本部などの部署を経て、1999年日本ATMの設立に携わり、2006年社長に就任。
日本ATM設立の背景
日本ATMは、1999年1月に設立しました。設立の背景についてお話しますと、アジア通貨危機の影響もあり、日本の金融機関が非常に厳しい経営環境にあった当時、私自身は外資系IT会社の日本NCRに在籍していました。当時担当していた住友銀行から「もっとコスト削減をしたい」という要請がありました。しかし1銀行単独でのコスト削減には限界があり、別の銀行との共同化によるコスト削減というビジネスモデルを提案しました。その提案が銀行、ビジネスプランが日本NCR及び親会社のNCRコーポレーションから承認され、日本ATMを作りました。そして、1999年9月に住友銀行、2000年に富士銀行のATM監視アウトソーシング(OS)の業務を開始し、共同化が実現します。日本ATMは、創業100年を超える外資系IT会社の日本NCRから、ベンチャー企業として独立しました。
現在、関連会社は3つあります。その中で最も特徴のある会社が「日本ATMビジネスサービス」です。「日本ATMビジネスサービス」は、ゆうちょ銀行とのジョイントベンチャーです。郵便局に併設されているゆうちょ銀行のATMの稼働監視から現金装填・障害対応を行う会社です。郵便局の全国津々浦々に展開されているネットワークを使って地方銀行、信用金庫等との共同化を目指しています。
経営理念・DNA
設立当時、日本ATMはベンチャー企業だけでなく、リストラ会社の性格もありました。設立当時に掲げた経営理念は「社員満足度の向上」であり、「ひとりの社員もリストラしない」と宣言していました。
2001年にセブン銀行(当時はアイワイバンク銀行)が設立されてそのATM監視OSを受注、2004年には新札が誕生するなどの運もあり、2006年頃にはATM監視OSのビジネスモデルも確立しました。2007年頃には、ベンチャー企業から、金融インフラを担う企業を目指したいと経営理念を変更しました。当社の「非戦略的業務の共同化」のビジネスコンセプトを基に、金融インフラにイノベーションを起こし、その結果金融業界に貢献し、会社を成長させたいと考えました。この頃には、会社もだいぶ安定的な状況になっていました。
そして2013年、先ほど説明した「日本ATMビジネスサービス」を設立し、2014年、「生活インフラを地域と世界に」という経営理念を掲げ、会社の目指すべき方向を変えました。金融だけでなく、生活インフラとして郵便、行政に向けてビジネスを展開することにしました。
このように、会社の成長とともに、経営理念・ビジョンを少しずつ変更してきています。こうした中で変わらず引き継いでいる会社のDNAは3つです。
- オープンな風土
会社の職責、ポジション、年齢、性別、国籍、関係なしに、いつでも自分の意見を自律的に発表できる環境を作る。 - 起業家精神
日本ATMはベンチャー企業であり、チャレンジを止めない。世の中の課題を解決するのが企業であり、その企業を創るのが起業家。当社から起業家が誕生する会社を目指す。 - 社員・社会の為の会社
社員一人ひとりが自分の人生を持って仕事をしている。社員一人ひとりが成長でき、自分の夢を実現できるような社員の為の会社になりたい。その結果、社会の為の会社が実現できると考える。
この3つを会社のDNA(こういう会社になりたいというモットー)として、経営してきました。
日本ATMのビジネスモデル
日本ATMは会社発足当初から様々なビジネスモデルを展開してきました。
例えば「ニューブランチソリューション」。こちらは店舗(ブランチ)の共同化を推進しています。現在、新宿郵便局の中に、30の金融機関の諸届け業務を扱える「銀行手続の窓口」を設置・運営しています。複数の地方銀行の手続きを東京の窓口一箇所でできるようにしています。相続手続きや、住所変更時には大変メリットがあります。
そして、金融と行政の共同BPO(Business Process Outsourcing)。これは、金融と行政の業務をICTで連携し、効率化を目指すものです。金融機関ではIT化、共同化が進んでいますが、行政機関はそこまでは進んでいません。金融と行政が連携するような業務はいくつかあります。例えば、行政と金融窓口の共同化や、税公金収納業務の一体化などのビジネス展開を考えていますが、まず第一弾として預貯金照会を推進しています。これは、税金滞納等している人の銀行口座の有無を行政機関が調査するものです。現在、行政機関は複数の銀行に書面で問い合わせをし、銀行は書面で複数の行政機関に回答します。それを電子化して効率化するというものです。
また、行政機関の課題を伺うとヘルスケア・医療・介護、最後には終活、相続という分野であることが分かりました。こうした分野も金融との関連が深く、我々ができることはまだまだ沢山あると感じます。
日本ATMは金融と行政とヘルスケアという分野でビジネス展開を考えていきます。
イノベーティブな人財づくり
会社発足と同時に、日本初のATM監視アウトソーシング事業を開始しました。社員300名「もう戻れない」という背水の陣の中、チャレンジやチームワーク、考える力、実行する力などを学びました。その結果、全国のATM監視シェアは、現在55%になりました。
一方、経営が安定化し、従業員も約3,000名まで増えると、多くの従業員が安定的な思考になってきました。その傾向がここ2~3年顕著になってきたため、DNAのひとつである「起業家精神」の必要性を皆さんに説明し、イノベーティブな人財づくりの以下の施策を取り組みました。
- 新入社員向け「会社の創り方」研修
新卒者の全ての新入社員は「会社の創り方」という研修を受けます。日本ATMがベンチャー企業であるということ、会社を作るためのビジネスモデルの考慮点、ロジック、プロセスを説明し、チームとなって起業する事業プランを作成し、発表してもらいます。「会社の創り方」は、2007年より実施している伝統の研修です。 - 新規事業プラン発表会
これはキャリア採用として日本ATMに中途入社した方に、キャリアビジョンとともに新規事業プランを発表してもらうものです。もし、あなたが新しい事業をやるとしたら、どんな事業をしますか?ということを発表してもらいます。会社がベンチャーから始まったことを認識してもらうための施策です。 - 起業寺子屋
1と2だけでは足りず、2018年より3「起業寺子屋制度」と4「社内起業制度」を設立しました。「起業寺子屋制度」は、自分が起業したいという人たちに手を上げてもらって、業務時間外に、会社の作り方、イノベーションとはどういうものか、日本ATMではこういう事業をやっているということを説明します。そこで最終的に新規事業を やりたいという方を発掘して、仲間を作って、その方々に企画をしてもらいます。現在13人の方が取り組んでおり、6月に発表する予定になっています。 - 社内起業制度
そしてもう一つが、社内起業制度。これは、社員がビジネスプランを作り、優秀な案には会社が出資をして起業させることを推進するものです。これも日本ATMが社内ベンチャーであることを社員の皆さんに認識してもらう取り組みです。現在、第二次審査が終了し、12件の応募の中、第二次審査まで通過したのは1件だけでした。今年10月にはビジネスプランを正式に作り、3年後に単年度黒字、5年後に通年黒字になるビジネスかを検証します。
日本ATMが日本NCRからベンチャーとして独立したのと同様、今度は日本ATMから起業家を輩出できるよう、会社を挙げて取り組んでいます。
(2019年5月現在の内容です)
文責:クオレ・シー・キューブ