創立30周年記念コンテンツダイバーシティ経営推進上の課題と方向性

創立30周年記念コンテンツ
ダイバーシティ経営推進上の課題と方向性

私ども、クオレ・シー・キューブがパワーハラスメントという概念を提唱し始めた頃から一緒にハラスメント問題に取り組み、また、女性活躍推進の検討会ではリーダー・ファシリテーターとして牽引いただき、弊社ウェブサイトコンテンツ「経営倫理とダイバーシティマネジメント」「風通しの良い職場づくり -CSR活動の一環として-」にも連載をいただくなど、常にご示唆をいただいております、村松先生より、「ダイバーシティ経営推進上の課題と方向性」についてお話しいただきましたのでご紹介いたします。

村松邦子氏プロフィール

村松邦子氏株式会社 ウェルネス・システム研究所
代表取締役 村松邦子
グローバル企業の広報部長、企業倫理室長、ダイバーシティ推進責任者を経て2010年に独立起業。持続的成長可能な社会の基盤として、ダイバーシティ、CSR/サステナビリティの推進、ガバナンスの向上に取り組んでいる。
公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)参与、一般社団法人 経営倫理実践研究センター(BERC)上席研究員、上場企業の社外取締役も務める。

ダイバーシティ経営推進上の課題

企業で、コンプライアンス、ダイバーシティ、メンタルヘルスなどをご担当の皆さまは、従業員一人ひとりに、どのように理解浸透させていくか、お悩みのことも多いと思います。そこで本日は、「変化への対応」「自分ゴトで考える」「統合的な実践へ」という流れで、お話をさせていただきます。

私は企業で20数年働いた後、独立しました。どうして職場で身体や心を壊し、自分らしく健康に働き続けることができないのだろう? という問題意識があり、社会人大学院で健康経営とシステムマネジメントを学びました。

今現在は、企業での経営倫理、ダイバーシティマネジメント、CSR、ガバナンスのアドバイザー、NPOでのダイバーシティ&インクルージョン推進活動、そしてスポーツ分野、Jリーグの社会連携活動に関わっております。このような異なったセクターから見えているダイバーシティや健康・ウェルビーイングの状況をご紹介します。

こちらの図は「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」を多面的に表したものです。

日本では、D&Iの概念が、組織/経営の視点から入ってきました。ダイバーシティはイノベーションを生み出し、生産性も向上すると理解されています。私は、この図のように、組織でのダイバーシティ推進が進めば、個人は健康で幸せになり、共生社会も実現できると思っていました。

ただ、かれこれ30年ぐらいダイバーシティ推進に関わっていますが、状況はなかなか変わっていません。いわゆるダイバーシティ先進企業を見ても、なかなか現場への浸透「自分ゴト」にはなっておらず、従業員の方たちからは「やらされ感」の声が聞こえてきます。

本来、D&Iが浸透すれば、個人の心理的安全性が確保でき、イノベーションや生産性向上につながるのですが、企業から個人、そして社会への広がりが感じられないのです。

ダイバーシティ&インクルージョン

組織でのダイバーシティ&インクルージョンが浸透した状態は、自立した「個」が相互に機能して、同じ目標に向かって成果を出し、チームとしての価値を向上していくということです。しかし今、これだけダイバーシティ経営が取り上げられている中でも、「個」が生かされ相乗効果が出ているという状況にある企業は少ないのではないでしょうか。

それでは「どうすればいいのか」ということですが、一人ひとりが組織で活かせる力を自覚し、どう成長したいか考え、自分自身のスキルやキャリアを磨くこと。そして、企業は、多様な従業員の「違い」が活かされる環境をつくることだと思います。

CSR7つの中核課題とダイバーシティ

日本でのダイバーシティは、「経営」「イノベーション」という方向から入ってきたという話をしましたが、人権、労働慣行などの観点から、企業として対応しなければならないCSRの課題でもあります。人権・コンプライアンスといった守りと、経営・イノベーションといった攻め、両方に関わることなのです。

もし、コンプライアンスや内部統制の担当者が、自分たちの業務とダイバーシティは関係ないと思っていたとしたら、とてももったいないことですね。

ダイバーシティ2.0へ

ダイバーシティの実践には、経済産業省の「ダイバーシティ経営100選」、「ダイバーシティ2. 0~一歩先の競争戦略へ~」など、さまざまな好事例や研究結果が報告されています。

従業員の多様性・ダイバーシティマネジメントというのは、短期的には、個人にとっても、組織にとっても面倒なことがあると思いますが、長期的には企業価値の向上につながるものです。
今、ダイバーシティ関係者の間で危惧していることは、経営陣の関心やコミットメントが、認証・表彰などを受けたことで満足し、トーンダウンしてしまうことがある点です。 形だけで終わってしまうのはとても残念です。

ですから「ダイバーシティ経営推進上の課題」としては、企業がどのようにD&Iを捉え、戦略として組み込むのか。多面的な概念を捉えたうえで、従業員の方たちにコミュニケーションしていくことがとても大事だと思います。

統合的な実践へ

ここで、「変化への対応」と「統合」について考えてみますと、2015年に国連総会でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されて以降、社会や企業の動きに大きな変革の潮流を感じています。SDGsは、企業だけではなく、教育や地方創生でも取組みが進んでおり、ここに投資家サイドからもESG(環境、社会、ガバナンス)の観点を指摘されるようになりました。まさに変化への対応が求められていると言うことです。

そして、誰一人取り残されない世界を創るということは、ダイバーシティ&インクルージョンそのものですが、多様性から生まれたイノベーションを企業がどのように社会課題の解決に活かしていくか、が重要になってきます。地球環境が持続可能でなければ、事業も継続できないですし、自社だけの取組みでなく、社会連携による「統合的」な実践も必要になります。

SDGsに関して、「こんな地球規模で大きな話が、自分たちに何の関係があるのだろう?」と思われるかもしれませんが、やはり「自分ごと」で考えた場合、2030年に自分の仕事はどうなっているか、組織は存続しているのだろうかなど、大きな変化のなかでの対応を問われているのだと思います。

ダイバーシティ経営の前提とは

ダイバーシティに関してよくあるご質問が、「多様性を大事にしたら、組織がバラバラになってしまうのでは? コンプライアンスは大丈夫なのか?」ということです。
そもそもダイバーシティマネジメント、多様性を活かすことができる組織の前提は、個人の自立・自律であって、一人ひとりが健全な倫理観を持ち、組織倫理に関しての制度化がなければ、違いを活かすことはできません。

組織として、競争性・効率性だけではなく、社会性・人間性とのバランスをどうとっていくかという経営倫理がダイバーシティ経営の基盤に必要です。

ダイバーシティ推進のポイント

どうしても、社内や仕事の中で、一方向からしか見ていないと、対策を実施するときに、縦割りの組織都合になりがちで、従業員の方たちが疲弊する状況にもつながっています。そのため、企業としては何を目指して、何を大事にしていくのか、そして従業員やステークホルダーとどんな未来を創っていきたいのかという対話を重ね、持続可能な組織の基盤としてダイバーシティマネジメントを考えていくことが重要です。

ダイバーシティマネジメントがきちんとできていれば、ハラスメントも減っていきますし、メンタルヘルスも向上されますし、一人ひとりが健康で幸せに働ける状況になるわけです。

人財育成と、イノベーション、それからガバナンスとしてボードダイバシティ(役員会の多様性)も重要で、意思決定の中に多様な視点が入るという観点からも、ぜひダイバーシティ&インクルージョンをお考えいただければ幸いです。

(2019年5月現在の内容です)
文責:クオレ・シー・キューブ

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