創立30周年記念コンテンツ
チャレンジする人財の育成 ~横浜オープンイノベーション構想との連携~
チャレンジする人財の育成 ~横浜オープンイノベーション構想との連携~
創立30周年記念コンテンツの第2回「VUCA時代の人材育成・人財マネジメント」で触れました〔VUCAマネジメント研究会〕でご一緒させていただいている村田製作所の牛尾隆一さんに、オープン・イノベーションの今を教えていただきましたのでご紹介させていただきます。
牛尾隆一さんも登壇される「VUCAマネジメント研究会 講演会及び説明会」は2019年8月2日(金)開催です。
牛尾隆一氏プロフィール
株式会社村田製作所
新規事業推進部 新規事業推進5課
オープンイノベーション推進チーム マネージャー
1991年三菱化学株式会社に入社しハードディスクメディアの開発からシンガポール工場での量産立ち上げを担当した後、2001年に株式会社村田製作所に入社、積層セラミックコンデンサの商品開発を担当する。
2008年立命館大学にてテクノロジー・マネジメント(MOT)修士を取得後、技術企画部マネージャーとして全社技術戦略立案を担当する。2012年より、全社のオープンイノベーション推進を担当し、2015年野洲事業所内にオープンイノベーションセンターを設立した。
キーワード「イノベーション」
昨今あらゆる日本の企業がオープンイノベーションということを言い出しています。
私自身にとっては、オープンイノベーションはそもそも目的でもゴールでも何でもありません。村田製作所の中で新規事業を生み出すことが私の仕事です。
実は10年ぐらい前に「会社の中にいても新しいものは出ないなあ」と、私自身色々なきっかけがあって思うところがありました。そこで、どのように企業の壁を越えて、外へ出て行って新しいものを生み出す活動ができるか?というようなことを考え始めた、というのが私のそもそものスタートでした。
当時は、オープンイノベーションという言葉は日本の中ではほとんど聞かれなかったのですが、会社の中でもそんなことを言いだす人間はいなくて。ただそうは言いながらも、2009年あたりから、そういうことを技術企画部でやり始めて、きっちりこれを業務の中で認めてもらって、これを一つのやり方として、村田製作所の中で、新しい事業を生み出すだということをやりたいな、と。それが2012年あたりからなんです。
かれこれ10年ぐらいこういうことをやっているので、すごい成功事例があるわけではないですし、有名ではないんですけど、経験だけはたくさんあるので、いろいろな企業の皆さんとディスカッションなどで呼ばれる機会は多いです。もし興味がございましたら、グーグル検索「村田製作所 オープンイノベーション」していただくと、結構発信しているので、情報が出てきます。
オープンイノベーションの変遷
オープンイノベーションと言い出したのは、ヘンリー・チェスブロウ博士というアメリカの大学の有名な先生です。
オープンイノベーションになる前の企業の状態はクローズドな状態で、このような流れがあります。
2、30年前の大企業はたいてい、一つの企業の中だけで自分たちの持っているリソース(技術であったり、人であったり、お金であったり)だけを使って新規事業を生み出そうとしていました。自分の企業の中で、持っているものを使って出口を見つけていこう、と。ただ、これはスピード感が上がったり、世界中でいろいろなものや人が入り乱れた状態になった時に、自社の中だけで、こだわって取り組むこと自体、開発・事業化のスピードアップにもならないし、研究開発の効率も良くないということがあります。
そのため、簡単に言ってしまうと、コアなもの以外は外から調達してもよしとする、ということが、オープンイノベーションということばができたときの状態でした。今ではそういう成功事例も出ていますし、イノベーションを導入している企業が取り組み始めて、成果が出るのはこういう部分だと思っています。
効率アップ、スピードアップというところのツールとして、オープンイノベーションという手法が役に立つという点で、ここ数年いろいろなところで実例が出てきています。
イノベーション・エコシステム
今、実は私が一番やりたいと思っているのはイノベーションのエコシステムを作っていくということです。イノベーションのエコシステムとはどういう状態のもので、どうやったらそういうことが生まれるのでしょう、ということが一番のポイントだと思っています。
イノベーション・エコシステムの図。このオリジナルはインテル・ヨーロッパの人が7~8年前、イノベーション学会で出しました。
オープンイノベーションは、企業以外にも、政府・行政、大学なども入ってきたり、あるいはベンチャーや個人のスタートアップなど、あらゆるものが入り乱れています。その中で必要なもの同士が結合していって、そこから新たな価値を生み出していく。イノベーションは「新結合」と訳されたりもするのですが、こういうことが定常的に生まれたりするような環境がエコシステムであると私は理解しています。
こういうものが本当に必要だな、と実はこの10年やってきて、一番思うところです。
オープンイノベーションセンター
これは村田製作所のオープンイノベーションセンターです。滋賀県野洲市というところで、ハコを作りました。ここは外の人を招く場なんです。新しいものをいっしょに考えていきませんかという、アイデア出しみたいなところからいっしょにやる場所です。三百平米くらいのところです。
村田製作所と対A社、この二者間で、どんな新しいことができるか、といった議論からスタートし、定常的に回していく、専門の場所を自社で持っておきたいということで作りました。
この写真で私が開けている箱、実はこの中にはリアルな物(ブツ)が入っています。それは商品ではなくて、村田製作所がやろうとしていること、研究開発段階のものを実際に手に取って使ってみてそれがどう機能するのかということを触りながら体験できる、そういうことにこだわっています。
企画やアイデアでいくらいいものができても、事業にはなかなかいかないんですよね。企画書を作って検討をするのが大企業はものすごく好きなんですけど、実は市場の声も聞けていなければ、誰の役に立つのかという情報もないのが現状です。そこで、村田製作所では、まずとにかくモノを作りましょう、ということでやっています。特にハードウェアの、弊社のようなメーカーでは新規事業を立ち上げるということが大事なので、ここは、モノにこだわる一つの場にしています。
ここは2015年5月に立ち上げて丸4年経ちました。当初、1年目から課題がどんどん見えてきています。立案した仮説が悪い方に実証されるというか、こういう問題が起こるだろうと思っていたら、本当にすぐそんな問題が起こりました。毎年毎年改善を繰り返しながらやってきて、まとめると次の二点に集約されます。
- 適正なパートナー探し(立地の問題)
- 事業を立ち上げる人財の育成
ハコを作ってそこに外の人を呼んできたら新規事業が生まれるのかと言えば、なかなかそうはいきません。山のような課題がありますが、一番大きなところでは、立地の問題があると思います。イノベーションセンターは、滋賀県野洲市という周りに何もないところにあります。大企業の研究所というと、そういうところに作られることが多いのですが、そもそもその場所に呼ぶ相手をどうしたら見つけられるんだろう?と、やる前から思っていました。
その時の条件が良ければ、例えば、京都長岡京にある本社や渋谷にある東京支社に、技術紹介センターを作っても良かったんですけど、なかなかハコモノをいくつも作るということもできなかったので、まずは呼べる箱を作ろうということでやりました。やってみるとやっぱり圧倒的に立地が問題になりました。
もともとは、この人と何かをやろうという目的がない状態でありながら、いろんな多様な人たちが出会える機会がある、そういう場がないと、次のステップにはいかない。これをどうしたものかな?と考えていました。そんな折、横浜のみなとみらいにイノベーションセンターを作ることが決まりました。これを活用することで、入り口側のパートナーが結びつく関係作りのスタートをきることが、ようやく(来年)できるようになります。
一番大きな課題は「事業を立ち上げる人財の育成」なんです。いろいろな課題をクリアして、共同開発やりましょうか!というところまで見えてきても、最終的に事業まで持っていくのは大変なことなんです。商品開発して、それが量産化され、それが市場に出てお金がもらえるというところまで事業として立ち上げるとなると間違いなく、それを引っ張っていける人がいないことには絶対事業にならない。やればやるほどこれを本当に感じています。だからいくらいいネタを持ってきて、いくら仕組みを作って、いくら箱を作っても「私が人生をかけてこれを事業化します!」ぐらいの勢いのある人が大企業からでも出てくれないと事業は生まれないというところがあるのです。
そのような中で、どうやったらわれわれ、自社なりに使える新しいことを、取り入れられるか探す中でVUCAマネジメントのような、人材育成のやり方がもしかしたら、一つの手法になりうるかもしれないという期待感で、去年あたりから岡田さんや大江先生とご一緒させていただいています。いろいろ使える、ツールになるかどうかといった議論から入っている状態です。
みなとみらいイノベーションセンター
横浜市の経済局も力を入れていて、今、私が旗振り役になって横浜の先頭に立つぐらいの勢いで取り組んでいます。
2018年に着工し、まだ影も形もないんですけど、来年2020年9月に竣工予定で、みなとみらいイノベーションセンターというものを作っています。そのエリアには大企業のR&D機能、あるいは本社機能が集約してきています。村田製作所では、来年千人単位で新規開発に携わるエンジニアがここに入ります。
ここは、横浜市がベンチャースタートアップを実は世界から集めようとしています。実際去年から、企画が立ち上がって予算も降りて、動いています。
大企業で開発をやっているエンジニアは、今の時点で1万人は集まっていると思います。そのすぐ隣でベンチャー・スタートアップというような面白いことやろうとしている人たちが来るっていう、これがまさに先程のイノベーション・エコシステムということです。
こういう地域が立ち上がろうとしているときに、たまたま村田製作所もそこに社屋を建てるということで、進んでいます。
ハコものや状況ができつつあって、放っておいたらイノベーションが生まれてくるかというと、そこはなかなか難しいです。
人財育成~横浜イノベーターズの取り組み
そこでキーになるのは人です。人材育成というのは、会社の中でやるような、イノベーション生み出す人をいかに会社の中で作っていくか、育成していくかということがあります。さらに横浜市の場合は、人同士をどんどんくっつけていきましょうという構想を持って立ち上がっています。「横浜イノベーターズ」と呼ばれています。これは今年の1月に実際に横浜市の林市長に、横浜のこのエリアが、イノベーションを生み出していく、そういう人たちが集まる場になります、と宣言をしてもらいました。
大企業、スタートアップベンチャー、大学とか、いろんな立場、いろんな分野で、新規のものあるいはイノベーションを生み出していきましょうみたいな、「人が集まる」っていう仕組みをとにかくどんどん作っていきましょうという動きが実は今始まっています。こういうことに興味があって、近隣に事業所があったり、お住まいがあったりする方にはぜひ参加いただきたいと思います。
横浜ガジェットまつり。開発者が遊びで作っているような、オタクみたいな技術者が自分の就業時間外で、実はこういうのが創りたかった!と言って工作してすごいものを作っていたりします。そういうもののお披露目の会です。
横浜市がイベントを立ち上げてベンチャー企業・大企業を紹介するということもやっています。さきほどのイノベーション・エコシステムというところが、今立ち上がりつつあるということをお伝えしました。
人が交流して生まれて、本気でやるとなったら、大企業側が持ち帰ってちゃんとやる、日本的にも世界的にも珍しいと思われるこういった地域が今、生まれています。
(2019年5月現在の内容です)
文責:クオレ・シー・キューブ