ハラスメント相談の現場からVol.41 感情は豊かな表現の素(もと)

Vol.41 感情は豊かな表現の素(もと)

前回コラム『 “感覚”に蓋をしないで 』や『 感情の動きは大切なサイン 』では、感じることの大切さがテーマでした。日頃、「感じること」よりも「考えること」にエネルギーの大半を費やしている管理職の方々にこの話をすると、「えっ、イラッとしてもいいんですか?!」、「でも、怒っちゃまずいんでしょ?」と当惑顔をされてしまいます。

某企業営業部長職にあるA氏(50代)は、自他ともに認める体育会系仕事人間。面倒見は良いものの、気分屋のところがあり、部下の落ち度について時にかなり厳しく追及することで有名です。先日、社内相談窓口へ部下の一人から「A氏の言動はパワハラではないか」との訴えがありました。A氏が部下を顧客の面前で声を荒げて叱責した、というのです。A氏側の言い分としては、「基本のルールやマナーを守れない部下がいるとムカッ腹が立って」、状況によってはついキツイ語調で怒鳴ってしまうことがあるのだとか…。A氏は気持ち(感情)や感覚に蓋をせず、自分の内でどんな感情が湧き起っていたのか、正確に言い表すことができます。A氏は“今、ここ“で起きている自身の感情に気づいたことで、「怒り」の感情を客観視するチャンスに恵まれました。しかし、せっかくのチャンスを生かすことなく、「腹が立って思わずその場で感情的に怒鳴りつけて」しまい、これでは、泥付きの素材をそのままお皿に乗せて出したのと同じです。

怒ったり、落胆したり、嬉しかったり、さまざまな感情が働くのは自然なことで、無理やり抑えられるものではありません。大事なことは、感情が湧いたとき、それをどう表現し、周囲に伝えるか、です。表現の仕方はその人らしさであり、理性や感性(ユーモアなど)を用いて様々な世界を目の前に広げることができる絶好の見せ場です。感情は本来、そうした豊かな表現の素なのです。最後に、A氏はその後、自らの感情をそのまま出してしまうのではなく、工夫して表現することを試みて、部下との関係が改善したことを付記しておきます。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2018.07)

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